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2005年7月21日

トヨタ式経営を理解するために

日時:2005年7月21日(木)19:00?21:00
場所:学士会館
スピーカー:今村 龍之介氏

2005年7月 例会の報告

 7月例会は、グループ21「編集会議」の今村龍之助氏に「トヨタ式経営・その強さの本質」と題してトヨタ式経営についてお話頂きまた。

トヨタ式経営を理解するために

                       今村 龍之助

 トヨタ式とは富士山のようなものです

 トヨタ自動車が純利益を毎年1兆円を超える報道に接し、多くの人の間でトヨタ式経営に関しての関心が高まり、話題になっています。話題になる前に、すでにビジネスマンの間では、ほとんどの方がトヨタ式とはどのようなものであるかの知識は持っているといっても過言ではないでしょう。トヨタ式経営に関して質問すると「ああ、あのカンバン方式のことだろ」「ジャストインタイムで在庫を持たないことだろ」「ストップウォッチを持って作業動作を測定し、いかにそれを短くするかということだろ」などといいます。 トヨタ式生産方式を導入・指導するコンサルタントの指導内容も、人によって異なるようです。
 この理由はどこにあるのかを「トヨタ式人づくり・ものづくり」で高名な若松義人氏にご教示いただきながら考えてきました。結論として言えることは、トヨタ式経営は富士山のようなものであるということです。 見る人のいる場所によって富士山の評価は異なるし、また働く人の評価も、働く人のおかれている場所によって異なります。

 トヨタ式に関する体系的な本はない
 なぜかを考えますと、トヨタ式経営に関してトヨタ自動車からトヨタ式経営とはこうだよといわれるような体系的にまとめられた文書がないことにあります。ただし、その一部であるトヨタ生産方式という書籍は当時の副社長の大野耐一氏が発表された書籍があります。この書は具体的な手段方法について書かれたものではなく、考え方が書かれたものなので、読む人によって解釈が異なる場合があります。 以上のような結果、多種多様な本が出版され、雑誌に原稿が掲載され、トヨタ式経営に関する考え方や意見は百花繚乱の感があります。
 
トヨタ式経営を理解するガイド
 そこでここでは、トヨタ式経営の品質を理解するためのガイドを行ないたいと思います。

●経営に関する考え方の基本として
 1. 会社は誰のものか→お客様のためにある
 2. 会社は何をやるためにあるのか→志・経営理念を実現するためにある
 3. 会社は誰のためにあるのか→従業員・協力会社その他関係者のためにある

● トヨタ式経営は
 1. 競争力を持つ経営を推進するために
 2. 持続的に成長する経営を推進するために
 3. 変化に柔軟に対応する経営を推進するために有益な経営システムである。

●トヨタ式経営はつぎの3本の柱から成り立っていること。
 1. 豊田佐吉・豊田喜一郎から始まる志の共有と継承→小冊子TOYOTA WAYとしてまとめられ、配布されています。
 2. 会社の活動はお客様のために付加価値を提供することであり、その活動の中からあらゆるムダを排除すること→トヨタ式生産方式   として体系化され、書籍として公刊
 3. 人間の考える気持ち・能力を尊重し、知恵を活かした日々改善による会社革新→人間性尊重の職場風土

● ムダのない経営活動のために
 1. 役員・社員が価値観を共有→経営理念とTOYOTA WAYの理解と共有
 2. 役員・社員が会社の方針を共有→TQCによる方針管理の徹底と継続
 3. 役員・社員が問題の発見と解決の技法を共有→QC活動の徹底と継続

● 人財育成のために
 1. 問題解決の技法を共有→QCの理解
 2. チームワークでカイゼンや問題解決→QCサークル活動
 3. 個人でカイゼンや問題解決→創意くふう提案制度の活用等など、あらゆることが合理的に説明できるように配慮されていることで   す。

● コストダウンのために─PART1
 1. 5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)の徹底
 2. お客様のために付加価値を生まないものはすべてムダと考え、あらゆるムダを排除する。
 3. 人・モノ・情報・金の流れを大切にする。流れているときは正常・停滞しているときは異常と考えて、停滞している箇所をなくす。
 4. バランスを大切にする→作業量の平準化・工程バランスの重視・人財の平準化

● コストダウンのために─PART2
 1. 作ったものを売るのではなく、売れたものを作る(販売と生産の連動)
 2. 仕事・作業の手順の決定とルール化(標準作業の決定と標準作業表の作成)
 3. 再発防止策の徹底(5回のなぜによる真因の発見と同じ過ちは2度と行わないの徹底)などなど。あらゆることが合理的に説明で   きるようになっています。ここに紹介したのは一部です。どのような質問に対しても、即座に「なるほど、そういうことですか」と納得   のできる解答が返ってきます。これは基本を大切に、軸を忘れることなく経営者・社員・関係者が価値観(経営理念)と会社の方針   を共有し、あるべき姿(目標・課題)を追求し続けていることから来るものと思います。当たり前のことを当たり前にやり続けるのが   トヨタ式経営といわれる意味がここにあります。

● 生産性をあげる職場力とは
 1. 職場の人間関係(チームワーク力)
 2. 仕事・作業の手順の決定とルール化
 3. 日々カイゼンによる職場の変化

一過性で語られる経営システムではない
会社の中の人・モノ・金・情報の流れを大切にし、停滞は悪であるからということで、停滞することを徹底的に排除しています。また変わらないことは悪とみなし、日々カイゼンによる変化を大切にしています。これは国内7万5000人の社員だけではなく、国内の協力会社、世界20数各国の生産工場・関係会社などで展開され、トヨタ式経営は日本を代表する経営システムからグローバルな社会でのスタンダードな経営システムとなっています。自動車会社だけではなく、非メーカーを含めて関心を持たれ、導入を試みている会社も多いのである。日本を代表する国際優良企業のほとんどで導入済みといっても過言でないといえます。

カイゼンとはどういうことか
カイゼン活動とはあるべき姿に近づき、追い越す行為をいいます。あるべき姿を実現するための時間と費用を提示し、あるべき姿を達成したときの効果を社員や関係者に見えるようにしなければなりません。あるべき姿を画くために、経営者は3年後の経営の姿を見つめ、ライバル企業の仕事をベンチマークして、それぞれの仕事のあるべき姿を把握しなければなりません。もちろん今では市場を地球規模でとらえています。先進国との競争ではどのようにあるべきか、発展途上国との競争ではどのようになるのかといったように、井の中の蛙にならないように注意する必要があります。あるべき姿が提示できないカイゼンは、カイゼンごっこで、結果としてコスト高の原因になり、競争力を弱めています。あるべき姿は、経営理念と結びついたものでないと、思いつきのもので、環境の変化によってぐらつく恐れがあります。あるべき姿を提示できない経営者や、あるべき姿を提示できない上司は、これからのビジネス戦線から放り出される危険性をはらんでいます。

トヨタ式経営の本当のノウハウは
多くの企業がトヨタ式経営を導入するために、セミナーへの出席や会社見学、書籍を買い集め、多くの情報を収集しています。それだけでは不十分と判断した企業ではトヨタ式経営に精通したコンサルタントを活用したり、トヨタのOB 社員を受け入れ、会社のカイゼンにトライしています。これらの会社の中には劇的なカイゼン効果を得ることができ、競争力のある会社に生まれ変わり、話題を提供している例もあります。また逆に苦労や努力の投入量と比較して必ずしも所定の成果が得られないという話もあります。これらの企業の社員の中には難しさに悲鳴を上げ、カイゼンの抵抗勢力になってしまっている例もあります。後者のケースをお伺いしていると、トヨタ式経営の基本である、現場のカイゼンを急ぐあまりに人を育てることを忘れている場合が多くあるような気がします。とりわけ、厳しい競争に勝ち抜く意識と行動の醸成を忘れているような気がします。