« 2006年3月 | メイン | 2006年5月 »

2006年4月13日

「マンション偽装・どうしてこんなことになるのだろうか?」

4月例会  4月13日(木) 19:00から21:00まで
場所  学士会館 310号室
担当  森田 悦功 氏

「マンション偽装・どうして
こんなことになるのだろうか?」
          森田 悦功
 今回の試みは耐震偽装問題を行動の面から考えてみようと思い問題提起をする目的で始めたのであるが、あまりに複雑なため事実関係の説明に終わってしまった感がある。
 建築確認とは、これから建築しようとする建物が建築基準法などの法令や各種基準に適合しているかどうかの審査をいう。都市計画区域内では、「建築確認」を受けた後でなければ建築に着工出来ない。建築確認事務は建築主事という特定の資格を持つ人をおく「特定行政庁」でこれを行う。1998年の建築基準法改正で民間委託が出来るようになった。
建築基準法の耐震基準の推移
1981年
建築基準法施行令大改正 新耐震設計法の導入
一次設計、二次設計の二段階方式を採用
保有水平耐力計算法を導入
1995年
阪神大震災 新耐震設計方以前に造られた建物に大被害
新耐震設計法以降の建物はその数分の一の被害率
ただし、新耐震以降の建物でも非構造部材は被害を受けた。
2000年
建築基準法施行令大改正


住宅確保促進法施行 性能設計法の導入
建築確認の民間開放
構造計算が四種類に増える。
限界耐力計算法、エネルギー法の導入。
住宅性能表示制度の導入
耐震等級1.2.3を新設
1998年6月 建築基準法 全面改定
「仕様規定」建築の建て方(仕様)を細かく
      規制していた。
「性能規定」建築材料の「性能」を規定する。
      に変更になった。
建築審議会の答申書
「国民生命、健康、財産の保護のため必要最低限のものとする」
国際規格
趣旨は、余計な規制はするな。海外基準・規格との整合性を図る。
日米通商摩擦が因であった。
(「拒否できない日本」・関岡英之氏)
マンション建設のプロセス
1.「企画、開発」マンション分譲会社
2.「設計」建設設計事務所(構造設計事務所)
  設計事務所に所属する一級建築士でなければ、マンションの設計はしてはならない。(基準法)
  意匠(建物の形、間取り、仕上げ)
  構造設計(地震、台風などに耐えられるよう設計する)
  構造計算で強度を確かめる。(大臣認定ソフトを使用して計算する)
  電気、水道施設などの設計
3.「確認検査」特定行政庁、確認検査機関
  (この後でないと、建築、販売、広告宣伝も出来ない)
4.「施工」  建設会社
5.「工事監理」建設設計事務所
6.「中間検査」特定行政庁、確認検査機関
7.「完了検査」特定行政庁、確認検査機関
8.「引き渡し」 マンション分譲会社
 今回の問題は、この流れの中で審査対象である耐震構造計算書なる書類を設計士が故意に改竄して提出して、それを見逃して確認検査を通して、その上、中間検査、完了検査でも見逃され建物が完成した上、売却してしまったという問題である。
 本来ならば、建たない建築物であったという事である。その上一番問題なのは、その件数の多さであろう。たまたま悪徳な建築士がいて故意に建築確認を通してしまったと言うことがあったとしても、100に届くかと思われるものが審査を通ってしまったと言うことは、各担当者が、自分の責任範囲をそれなりにでもやっていれば当然防げた問題だと思われる。
 それでも、建築確認はその許可が下りた時点で、設計士、施工業者、マンション販売会社、その上銀行までそれを拠り所として仕事が進んでいく。
原因(各立場からの言い訳)
・ 建築確認による構造計算が複雑で難しい。
・ 確認検査を民間委託したため、検査者と申請者の立場が、逆転した。
・ 確認検査の数量が多く検査に要する時間が足りないため、構造計算に関しては再計算を必要としない。(但し、大臣検定の計算ソフトを使用して計算を行う)
・ また、設計士の管理に関しては、こちらも十分な予算が無く対応が出来ない。
結局、根底あるものはすべてその作業に対する対価が与えられなかったと言っているように聞こえる。
行動を通して考えてみる。
マンション業者のヒューザーという立場に立って考えてみようと思う。
この会社は、不動産販売の仲介業から1988年マンション分譲会社に変わった。
バブルがはじけた後、特に中小のマンション業者は厳しい環境に追い込まれていき、今までの画一的なマンションを造って売ることから、特殊性を出す方向に大きく変わっていった。あるものは、著名なデザイナーが設計したものや、女性の立場を強調したマンションなどに特化していった傾向があった。そこでこの会社では100㎡越えのマンションを安価で売り出すことによって業績を急速に伸ばした。特にバブル期に言われた年収の5,6倍で買えるマンションという国を挙げての目標に近づくことを戦略に持っていった事は決して間違いではなかったと思われる。
施工 木村建設 熊本市の鉄工所→総合経営研究所内河建との出会い→コスト監理の徹底と社員教育の重要性を説かれる。指導に従い他県に進出した。その課程で矢張り内河の紹介で「大分工法」=資材や工程の無駄を徹底的に省く、建物のデザインをシンプルにしてバランスのよい設計を工夫することで購入者の負担を少なくすることを実現した。
疑問点:システム型枠を使った。(内河氏がドイツから学んできた)大型で何度もつかえる金属製のものを使うことで、工期短縮できる。これによりワンフロア2週間を4日でやれる。養生期間はどうなるのか。:ホテルのような画一的な部屋づくりには有効。
それよりも、「柔構造の設計施工で鉄筋コンクリートのマンションを造っている」これが売りであった。太い柱と梁を固定して頑丈な建物を造る=剛構造。これに対して建物の「粘り」を強め、柳が風でしなるように揺れながら、地震のエネルギーを吸収するというのが
「柔構造」ねばり強い柔構造にすれば柱や梁も細く軽くなり、大幅コストダウンが出来る。
これが大分工法であった。姉歯に依頼したときにこの考え方を充分理解が出来る構造設計建築士かどうかの判定が出来なかったのではないか。
また、東京に進出してきて同じコストが保たれるのかと言うことに関しても自分の経験からも疑問が持たれる。
ところで、本当に最初から違法性を認識していてマンションの販売を続けていたのかと言う問題である。自分としては、少なくとも実業の世界でそのようなことがあるとは思えない。
そこで出席者の意見を聞いてみたところ、飛行機を買うのが目的であったので、そう言うことがあり得るという方がいた。
しかし、それは目的ではなく結果からきたものではないかと思う。建築主がオールorナッシングで建築物を建てるとは思えないのである。これら100平方メートル越えマンションは、完売であったように買った人たちは、居住空間としての満足はかなりのものであったと思われる。また、民間の建設業協会で優秀事業賞に選定した。
「もし」はないかもしれないが、建築確認という流れが正常に作動していたならば、引き返すことが出来たと思う。その場合において、耐震構造のコストは、誰がそれを負担するのであろうか、それをすべて施工業者やその下請けに押しつけてきた事が、今度の問題の根底にあるのではないか。本来のコストは建築主、施工者、購入者が応分に負担すべきものであると考える。
その場合のプラス金額が130万円位だという試算もあるとのことである。
今後の問題
1.この被害者の救済をどうするのかという問題である。瑕疵担保責任制度というものがある以上、販売者の責任は当然であるが、確認申請制度の齟齬があったということも確実で、これからの問題であろう。
2.確認申請制度をこれからどうするのか。第一回の法改正が提出されたが、建築士、不動産業などへの罰則の強化が主になっている。結局今までの制度自体の瑕疵は無かったことにして、そこに携わっているものの倫理をただすと言うことのようである。
しかし、一番大切なのは確認申請制度の信用をどうするのかという問題であり、そこを守ることは、国、建設業、建築士協会など全員の覚悟で取り戻さなければ、そのつけは結局消費者に掛かり、安心して物件の購入が出来ないことになってしまうであろう。
 それによるコストの方がより高いものになってしまうのではないであろうか。
 今後の展開も見た上で、また皆さんの意見をお聞きしたいと思っております。