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2006年10月11日

日本と中国の架け橋を創る「ブリッジ・プログラム」

10月例会  10月11日(水)
19:00から21:00まで
場所  学士会館 309号室
担当  鈴木 房子
テーマ 日本と中国の架け橋を創る
    「ブリッジ・プログラム」
    東京工学院専門学校の歩み

 自己紹介から始めます。1981年に友人の紹介で「株式会社脳力開発センター」に入社しました。そこで、平野耕一郎先生の「脳力開発講座」を受講しました。これは、当時、水曜日の夜に2週間に1回のペースで行われていたものです。当時は教材というと、1回2時間の講演テープが全18回分あるだけで、これだけでは教材というにはお粗末な状況でした。そこで、第2版となるテープを撮りなおし、企業向けに販売するための、「研修ノート」、ケーススタディ集の「ワークブック」を作りました。それと、白の「脳力開発入門」茶色の「脳力開発指針集」を改訂しました。この間約1年間、脳力開発センターに職員として在籍しました。
その後、色々な仕事を経験して、1988年に自分で会社を立ち上げました。これは大手パチンコ屋さんのCIを担当したのがきっかけでした。そこで、第3版の脳力開発のテープを購入しました。それで脳力開発講座を自分で展開してゆくようになりました。VTRテープしかありませんから、あとは自分でワークシートやケーススタディを作って講座を進めました。脳力開発を使って英語の学習法を開発し、英語教室も展開しています。

こうした中で、私なりの脳力開発の定義づけは、「脳力開発はOSである。色々なアプリケーションを付け足して使わないと、実績は上がらない」です。ですから大切なことは2つ。ひとつは、OSはOSとしてきちっとやること。ふたつ目は、アプリケーションはアプリケーションとして広がりをもたせるということだと思います。
今回のブリッジプログラムはアプリケーションのひとつです。(OSの方は、以前例会で紹介したビーコムコーポーレーションの方でやっています)

 2004年に産業カウンセラーの資格を取って東京工学院の「産業カウンセリング」や「心理学」の非常勤講師を2005年からやることになりました。
 その中に、中国人留学生のクラスで、1年生32名、2年生26名計58名の大きなクラスを担当することになったのです。東京工学院という学校は、資格を取るための勉強をしているのですが、その中に大卒の資格を取らせるというコースがあり、そのひとつです。
 1983年の中曽根内閣の時に、留学生10万人受け入れ計画が持ち上がりました。当時日本は留学生の受け入れに消極的で、そのような政策ができたことと、中国の経済力の発展により、中国からの留学生がふえていました。

 そこでの問題は学生の授業を受ける態度が非常に悪いということ(詳細は活字にできないので、省略させていただきます。例会に出席なさった皆様は、目が点になっていらっしゃいました)。何とかしなければ、ということで出てきたアイデアが、BSBPブリッジプログラムです。

BSBPブリッジプログラム、の意味は、ブリッジSE・ブリッジプロジェクトマネジャーや、ビジネススキルオブビジネスパースンなど、色々な意味を込めたものです。ブリッジSEはすでに活躍していて、高額給与で活躍している人たちです。そのような人材を出してゆくことを目標としました。
私が担当したのは、中国と日本の文化の違いについての科目です。まず、中国人を理解するために本を読みました。『中国人と日本人、ホンネの会話』『中国人の心理と行動』が役に立ちました。この本を読んでみて、日中の違いにびっくりすると同時に、判らないで一年間よくやってきたなと思いました。そして、学生にも違いを気づかせることは絶対に必要だと確信をもちました。
ただ、中国の進展がめざましく、非常なスピードで変わっていて、学生は東京工学院に来ている間にもお国の状況が変わっていて、焦りが生まれているように見えます。だからこそ、人間行動の根本が同じとする脳力開発を使って文化の違いを学習することが大切だと思ったわけです。


『BSBP中日・文化比較』

前提:
『BSBP中日・文化比較』は、日本に滞在する中国人留学生の前途が”明るく”なく、前途多難であるという前提に立っている。単に「学校を出ました」だけでは、日本もしくは中国の企業の中で「戦力」としては役に立たない。特に中国的考え方に固執する傾向をもっていては、企業の期待に応えることが出来ず、本人にとっても幸福ではないし、企業や社会にとっても望ましいことではない。

特徴:
1. ねらいは、学生に「文化の違いに気づき、考え、判断して、行動する」重要性を考えること
日本と中国では文化の違いが大きく、学生は漠然と「違い」を感じているが、何がどう違うのか明確に意識していない。
「自己中心的傾向」が中国人の特徴であり、そのために「自分や中国が正しく、日本や日本人は間違っている」という基盤の上に判断、行動しているケースが多い。
文化の違いは多岐にわたり多様であって、すべてを教えられるものではない。自分で気づくこと、考えることが大切である。両方を知った上で、自分で判断して行動するならば、それは中国の考え方であれ、日本の考え方であれ、正しい行動であろう。

2. テキストに『脳力開発』の要素を利用した。
『脳力開発』は、企業の社員活性化研修として用いられている。
① 精神的姿勢の確立(主体性・進歩発展性・協調性)
② 思考方法の整備(中心思考、多角度思考、両面思考、確定思考、具体思考)
③ 実際知識の確立(実際行動としての知識、知識の拡大、人的ネットワークの拡大)
の3項目、計11の要素があり、テキストは異文化の要素と組み合わせて作成してある。

3. 各章にワークを設け、アメリカの「異文化理解」の教材を使用して、「考える」や「書く」課題を準備してある
アメリカの「異文化理解」の教材によって、視野を拡げる。日本と中国だけでなく、世界中に文化の違いがある。その中では日本と中国は同じもしくは似た要素も持っていることを意識させたい。つまり比較文化論や本来の異文化理解の学問領域においては、日本と中国は同じ範疇に含まれる。違いだけを強調することは避けたいと考えた。

4. 後半は思考方法、最終的には「就職面接の心構えを扱う
思考方法(多角度、両面、確定、具体、中心)を順に、
① 立場=役割・希望-中国の公私混同、官の腐敗
② 片面=決めつけのまずさ-日本のタテマエとホンネ
③ 確定=客観と主観、事実の大切さ-歴史認識の違い
④ 具体=抽象・概念-思想や主義を避ける
⑤ 中心=就職面接-目的達成の具体行動

タイトル

はじめに:この教科のねらい
第1章 社会化の行動
第2章 面子理解  (主体的に取組もう)
第3章 集団主義1 (他人の利益もはかろう)
第4章 集団主義2 (協調しあおう)
第5章 知識 (たくさんの知識をもとう)
第6章 人間関係   (たくさんの人を知ろう)
第7章 思考方法   (1多角的に考えよう)
第8章 タテマエとホンネ (2両面を考えよう)
第9章 吹牛・説大話   (3事実に基づいて考えよう)
第10章 5W 1H       (4物事を具体的に考えよう)
第11章 就職面接   (5中心点を押さえよう)
第12章 おわりに: 進歩発展をめざそう


以下は、このテキストを作る時に工夫をした点です。

①脳細胞回路の部分は、社会化というテーマに置き換え、日本社会に適応するためという観点に変えた。

②他人の利益もはかるという点。日本人なら聞いただけですぐに理解できるが、中国人留学生には受け入れられない。他人の利益をはかるのは自分の利益にもなるのだということを言わなければならない。中国の歴史の中では、個人主義・集団主義・自我主義というもののなかで考えてゆかなければならない。

③知識の大切さ。学生なので、知識のボリュームを増やしてある。

④思考の5要素は、適応しやすい。多角度思考では立場で(講座の中ではいっていないが)立場をわきまえるということを加えた。両面思考は建前と本音、公と私の違い。確定事実では事実の重要性。具体思考では、愛国教育などを扱った。そして、中心思考で面接試験、就職活動にするなど、細かい工夫をして作ってある。

以上のように、作ってはみましたが、実際は、手探りで始めたばかりという状況です。
中国人留学生は、今後もっと増えてゆくと思われます。訪日中国人の数も、90年に10万人だったのが、2005年には65万人、留学生も1万8千人だったものが7万人を超えてきています。
 しかし、日本が受け入れた留学生は、量的には伸びているものの、留学生の質や日本側が提供する教育の質には問題が多々あるように感じます。米国に留学する中国の学生の大半が親米派になり、彼らが祖国の指導的立場に就くと米国の外交政策は非常に遂行しやすくなっていることに対し、将来指導的立場になりうる中国の若者が、日系企業によって十分に活かされていないし、留学に挫折し、日本に対して好感を持たないまま帰国する場合も決して珍しくありません。

 こうした状況を改善させるために、日本は留学生を受け入れる際、相手側のニーズを把握するのはもちろんですが、日本や日本人自身の研究を深め、教育体制を整えることなどが急務のように思います。