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2006年11月 9日

耐震偽装問題のその後

11月例会  11月 9日(木)
19:00から21:00まで
場所  学士会館 309号室
担当  森田 悦功
テーマ 耐震偽装問題のその後

テーマ :耐震偽装問題を考える。
   「その後の経過と再発は防げるのか?」
担当  : 森田 悦功
    情勢判断学会運営委員

前回4月の例会で、この問題の制度的問題点と係わった人たちの役割分担についての説明を行った。
その後、この問題に対して司法が乗り出し係わったものに対しての裁判も始まってきた。違法建設物の解決にはほとんど関係がない、別件で罰を与えるという方法で、世論(マスコミ)の誘導をしているように思われた。
当初、新聞報道では、警察当局がこの事件を立件する最終目的を販売者、施工者、指導をしたコンサルタント等が共謀した詐欺事件においたと報道していた。
 それを元に、それに係わった担当者全て別件で逮捕をして事件解明にあたった。
結果、構造設計担当の姉葉建築士が単独で計算書を改竄したと言うことであったと結論づけられた。
この件に関しては、前回の例会で自分としては、建築主がそのことを知っていたと言うことは無いと言っていたことが判明したことにほっとしている。
※その根拠は、
1. 警察が言うように係わったもの全てが、偽装その物を認識していたとするならば、必ずどこかから漏れて、これだけ多くの物件が違法に出来上がるとは考えられない。
2. また、あくまでも建築確認許可制度がある以上、そこがザルのごとく抜けられるという発想を、プロジェクトを進める立場が最初からそれに頼るなどと言うことはあり得ない。
 (但し、発覚した後の2件の引き渡しに関
しては、詐欺の要件がかなり含まれている可能性は否定できない)
 一方、再発防止をめざし関係法令の改正が国会で成立し、順次施行される。それによると、骨子は(かっこ内が原因?)
1. 建築確認・検査の厳格化
(確認・検査がおざなりに行われていた)
2. 指定確認検査機関の業務適正化
(検査機関の業務が不適正に行われていた)
3. 建築士等の業務の適正化及び罰則強化
(建築士の業務が不適正であり、それに対する罰則が甘かった)
4. 建築士等の情報開示
(情報開示が行われておらず
不正をして処分を受けた建築士の情報が開示されていなかった)
5. 住宅売り主等の瑕疵担保責任に関する情報開示
(瑕疵を担保する保険の加入などの、説明等が行われていなかった)

ここから考えられることは、行政の監督不行とどきといっているようである。
少し説明を加えると特に
1. については今回一番の問題であった、構造計算審査については、一定の規模以上の建築物に対しては、構造計算プログラムが複雑で、もし、不正があった場合再計算をしない限り発見不可能なため、別の計算判定機関の審査を義務づける。これによって審査期間が21日から35日に延長される。
2. については当然のことでこれがないがしろになっていたことが、今回の根元であると思われる。

それでは、検査機関の民間参入がどういう経緯で行われたのかというと、
前回お話しした1998年の建築基準法施行令大改正において決められた。
その時に同時に変更されたことは、
「仕様規定」 建築の建て方(仕様)細かく規制する。から
「性能規制」 建築材料の「性能」を規制する。に変更した。
「国民の生命、健康、財産の保護のため必要最低限のものとする」という要するに「余計な規制(口出し)はするな」という海外の基準に整合性を持たせる改正が行われた。
それと共に、1995年の阪神大震災において多くの倒壊が起き、「行政は違法建築物の監視に尽力すべきだ」ということに対して、各自治体の建築主事(従来の建築確認を行っていた)の絶対数が不足していたと共に行政の合理化=「官から民へ」の大号令から民間開放が行われた。
それによってどのように変わったかというと、
(前)基本設計の段階で、行政と法解釈、
行政指導など幾度も協議をおこない確認許可が下り建築が開始されていた。その時点で行政指導などというような形で様々な規制が行われ非常に時間も要した。
(後)確認対象法令に合致しているかどうかだけを事務的、機械的に確認して許可を出す。これによって格段に処理のスピードが上がるということが一番の目的になったように思われる。
それでは、出来上がった建築確認許可というシステムは、前と後で違うものなのか。法的には何ら変わらないものであろう。
建築基準法では、建築確認許可がおりていない建物は建たないという大前提がある。
それ故にこれを根拠にして、建築作業が動き出すのである。建築会社というものは、どんなに大きな組織であっても、自社で全ての工程を行える会社は無い、その下に多数の専門工事業者がおのおのの担当に従って工事を行っていくものである。その羅針盤となるものがこの建築許可の下りた図面になっているわけであるので、その根本が崩れたために多くの犠牲(購入者、建築業者、下請け業者)が出てしまったと思う。
TVのコメンテーターなどが、よく「実際工事をしていたものが、気がつかないわけはない」と言っていたが、例えば鉄筋工事会社のものがあまりの数量の少なさに気がついたとして「本当にこれで良いのか」と申し入れたとしても「専門の設計者が設計した上に、建築確認も下りているから大丈夫である」といわれてそれで終わりであろう。
また、もしもそれで心配だからと言って、設計図と違う工事をしたとしたならば、それは逆に契約違反、法違反になってしまうであろう。そう言う状況で起きた事件なので、無責任のオンパレードになってしまい。被害者はいるが、真の加害者を特定できない状況が出来てしまった。被害者の方には本当に気の毒ではあるが、この後の民事裁判の結果がどうなるかということなのであろう。

 次に、このマンション建設絞って、係わったものの検証をしてみよう。
1.姉葉建築士 本人の言い訳からすると、
偽装をしないと仕事をもらえなくなると言っていたが発注者側は、コストを低く抑えたいという意図はあったと思うが、法違反まで要求していなかったであろう。そうなれば彼がやったことは、偽装をしても自分の利益とは関係ないことで、違法行為(この点に関しては疑問もあるが)をしたということで何ら目的にあった行動ではないのではなかろうか。
2.ヒューザー
株式会社の目的は利益の増大であろう(公的責任も当然あると思うが、「金儲けして何が悪いの」などという輩が多いので今回は棚に上げる)から戦略としてこれを一義にするのは問題ないと思う。
それに対して、専有面積の大きいマンションを手頃な価額帯で売り出すということが第一番の戦術であったと思われる。実際にそれが当たり売れたと言うことは、方向性は間違っていなかったのであろう。
では、何が問題であったのか、ここでも事実は別にして報道関係では、コストを絞ることにかまけて、安全をないがしろにしたと大々的に報道された。
 しかし、本当にそうなのか、どのような仕事においても、全て自分で出来るわけではなく、各専門業者に依頼して、それぞれの仕事をして貰った上でその仕事が出来上がっていく以上(特に耐震構造の設計などは専門家にたのんでやって貰うより方法がない)やむを得ないのではないか。
 ただし、その業者選定時点であらゆる調査、人間関係まで確認したかは疑問である。建築関係の契約は、下へ下へと何層にもなっており、一般的にそれぞれ順番に責任を負っている。自分より下職に関しては全て自分が責任を負わなければならない、人間関係までしっかりつかまないと請負仕事が出来ない。昨今は、とにかく安くやる業者のみに頭がいき、そこのところが、ないがしろになってきているように思われる。途中の誰かが故障を起こした時、今度は上へ上へと責任が上っていき、今回のように身ぐるみはがされる。そう言う点からして、戦術が雑になっていたと思われれる。
3.木村建設 この会社は、何をしようと思っていたのかまるで分からない。今回摘発された件によれば、大きな工事を請けたいために決算内容を水増ししたのだという。しかし、
小さい工事で利益が上げられないものが、本当に大きな工事で利益が上げられると思っていたのか疑問である。

 今回の問題の根元は、デフレ下において、とにかく安ければよいと言う風潮が行き過ぎた事にも関するのではないであろうか。
もちろん、コスト削減を求めるのは当然であるが、下請けの単価だけでコスト削減をしようと言う事が行われてきた。しかし、下へ行くほどコストは実コストである。コスト削減には、上から下まですべての作業効率を考えて行っていかなければ問題の解決にはならないと思う。