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2014年7月21日

平成26年6月例会報告

日時  : 6月11日 水曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ : 食品から見た「ハラール認証制度」について
場所  : 港区立商工会館
担当  : 北島 徳泰

食品から見た「ハラール認証制度」について
・ハラールとは?
イスラム教では、人は、イスラム法に適った生活をすることで現世で成功し来世で立法者から多大な褒賞が得られるとされている。
イスラム法には、ハラールとエイタプと呼ばれるものがありこれらは並んで守るべきものとされている。ハラールは、HARALまたは、HALHALと表記され、「イスラムの法に適う」ことを示す。また、エイタプは、正確な日本語訳は存在しないが、清潔、清浄、健康的、環境保全うえで好ましいものとされている。
ハラール自体はイスラム教徒が消費する全ての製品(食品、日用品、衣料品、化粧品、医薬品、観光、流通、金融など)が該当する。そのため、イスラム諸国では社会全体のハラールを維持するための様々なルールが存在する。
・「食べ物」についてのハラール
ハラールであるものを食べることは、神に教えに対して忠実に従う信仰の一つあるとされている。逆にハラールでないものを食べることは、神に対する背信行為であり、罪深い行為とされている。そのため、食品については厳格なルールが多く存在する。
ハラールとされているものは、きれいな水、穀物、果実、野菜などの植物、海産物、アルコールを除く発酵食品、豚を除く牛、ヤギ、ヒツジ、鶏などの家畜などとされている。
ただし、これらは育て方や処理方法について厳格なルールが存在する。例えば、家畜については、与える飼料、屠畜方法、加工方法、輸送・保管方法についてのルールが存在し、それが守られなければハラールではないとされている。農産物については、豚のフンを使用して栽培したものは、ハラールでないとされている。
また、調理についてもルールがあり、調理する原材料、調理設備や道具、食器がすべてハラールでなければならないとされる。
ハラールとされていないものとして、豚肉やアルコールが有名だが、他には、犬、毒を持つ動物、肉食性の動物、魚類を除く水生動物、病気を媒介するような動物、殺してはならないとされる動物、落雷により死亡した動物、事故死・自然死・病死した家畜、盗品、ノンアルコールビールなどとされている。近年では、遺伝子組み換え作物もハラールではないとされている。
イスラムの教えでは、ハラールはなぜハラールなのかを神に問うてはならないとされているため、ハラールに対する明確な根拠は不明とされている。しかし、食べてはならないとされているものは、十分に加熱しないと危険なもの、人間にとって有害な寄生虫や病原菌を媒介するもの、不浄なものが付着したものなど衛生上食べることが好ましくないもの、依存性や中毒性の高いもの、倫理上好ましくないもの、人間にとって有益な動物が多い。「食べ物」についてのハラールはイスラム教徒の生活を安全なものにするためのルールの一つとも考えられる。
・ハラール認証制度の確立
イスラム諸国の中には、他宗教と日常的に接している国が少なくない。これらの国は、ハラールの商品・サービスとそれ以外の商品・サービスが混在しており、これらが確実にハラールであることを知るための手段を必要としていた。また、イスラム諸国の中には、耕地面積が少なく食料自給率の低い国もある。これらの国は、他の宗教圏から食料を輸入するケースがあり、輸入する食料がハラールであることを保証する制度を必要としていた。そこで考え出されたのが、ハラール認証制度である。現在、ハラール認証制度は食品だけでなく、日用品、化粧品、医薬品、観光、流通、金融などの分野にも存在する。
・「食品」のハラール認証制度
食品が厳密な意味でハラールであることを認証制度として設けている国は多く存在する。
しかし、この制度は、法律や国際規格ではなく、神が定めた倫理に基づいた規定であるため、国ごとに詳細が異なる。一般には、聖地に近く他宗教と接する機会の少ない国ほど明文化されておらず、聖地に遠く他の他宗教と接する機会が多い国ほど明文化されている傾向が強い。
日本の食品企業が海外でハラール認証を取得する場合は、ハラール認証取得手続きの促進を政府が全面的に支援しているマレーシア、多くの国と提携して認証制度の共有化が進んでいるインドネシアで認証を取得する企業が多い。
・日本の食品企業とハラール認証
イスラム圏向けのハラール認証を取得した日本の食品企業はあまり多くない。多くの日本の食品企業は関心を示しているものの、以下の要因がハラール認証を難しいものと感じさせている。
(認証制度について)
①国の法律、規格ではないため明文化されていない部分が多い。
②国によって認証基準がまちまちで、1か国ごとに最低でも1件ずつ取得しなければならない。また、どの認証機関に依頼すればよいかの情報が少ない。
③日本人との宗教観では理解し難い部分が多く、認証取得までのプロセスが複雑であると感じてしまう。
④ハラール認証の有効期間は1年から2年の国が多く、更新のたびに現地調査(認証機関のスタッフを日本に招待して行う)が必要がある。不備が見つかると、承認は取り消しとなる。この場合は、書類審査からやり直さなければならない。
(ハラール認証に必要な証明について)
①製造した商品だけでなく、原料、加工材料、添加物、包装材についても厳密な意味でハラールであることを証明しなくてはならない。
②全原材料情報、製造工程について情報を開示する必要がある。
③製造工場の建屋、製造機器、機材、原資材置き場、製品保管倉庫、輸送車などもハラールであることを証明しなくてはならない。
④製造工場の敷地だけでなく周辺環境についてもハラールであることを証明しなければならない。
(運用上の問題について)
①イスラム教に対する十分な理解を必要とするだけでなく、ハラール管理組織を結成し、ハラールの管理者としてのイスラム教徒を雇用して商品のハラールを維持する必要がある。しかし、日本国内の食品産業に従事しているイスラム教徒とイスラム法の専門家の人数が少なく人材確保が困難である。
②製造工場の建屋、製造機器、機材、原資材置き場、製品保管倉庫はハラール専用の設備が必要でそれに伴う投資が必要となる。また、ハラール専用ラインとそれ以外のラインの間における人や原料・資材の移動は認められていないなどのオペレート上の制約がある。
(違反したときのペナルティーについて)
①万が一違反すると、宗教倫理を含んだ責任を問われ、国によっては社会的制裁だけでなく、刑事罰を受けるケースがある。
②一度違反をすると、宗教的、社会的信用が著しく損なわれ、信頼の回復には相当の時間と労力を要する。
上記以外にも様々な要因により参入を見送る企業が多い。しかし、最近では、官公庁や自治体、大学や法人によるセミナーの開催や書籍の発行が盛んに行われるようになったので、情報量は以前に比べて格段に増えている。また、認証をサポートする日本の法人も現れているので、参入できる企業は次第に増えていくものと思われる。
・最後に
ハラール認証を難しいものと感じている日本の企業は多い。しかしながら、海外市場に参入する場合、各国の市場特性や規制内容、国民性、文化風習について十分調査するのは当然であり、ハラール認証についてもイスラム教、イスラムの文化・文明の成り立ちを正しく理解する準備が必要なだけである。
また、イスラム教圏との交流は、多くの日本人にとって今まであまり経験が無かったというだけであり、今後イスラム圏との経済活動や国際交流がさらに盛んになれば、他の地域の国々との交流と大差ないものに変わると思われる。今回はそのきっかけとして、ハラール認証制度が注目されたものと思われる。
※本稿の文章は、私一個人がハラール認証について理解するために調査したことを簡単にまとめたものであるため、ハラール認証機関、イスラーム学、シャリーア学の専門家による検証を行っておりません。また、本稿はハラールの見識について十分でない部分、表現が適切でない部分が多くございますので、本稿の引用、転載は固くお断りいたします。
参考文献
・森下翠惠、武井泉 ハラール認証取得ガイドブック 三菱UFJリサーチ&コンサルティング編 東洋経済新報社 2014年
・並河良一 ハラル食品マーケットの手引き 日本食料新聞社 2013年
・並河良一 ハラル市場の将来展望と認証までのプロセス-第4回ハラル市場の現状と今後 食品と開発48(5),78-80 2012年
・並河良一 ハラル市場の将来展望と認証までのプロセス-第5回ハラル制度の国際比較食品と開発48(7),62-64 2012年
・NPO法人日本ハラール協会HP 「ハラールとは」http://www.jhalal.com/halal
「ハラール認証について」http://www.jhalal.com/auth
・一般財団法人ハラル・ジャパン協会HP「ハラール基礎知識」http://www.halal.or.jp/halal/
・武藤英臣 ハラールの考え方と認証について フードケミカル48(7)
・食品産業海外事業活動支援センター ハラル市場とその展望               http://www.shokusan-sien.jp/sys/upload/166pdf32.pdf