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2015年10月13日

平成27年9月例会報告

日時  : 9月10日 木曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ :城野先生の著書から学ぼう「第三の経済学」を輪読しよう第4回
場所  : 港区立商工会館
担当  :篠原 昌人、榊原 高明

今回は、篠原氏が「国家経済戦略の転換点」を、榊原氏が「日本経済観察の出発点」を取り上げ、学びました。

「国家経済戦略の転換点」
1.敗戦と戦略の大転換
昭和20年を基点に、国家の根本戦略を対外遠征的戦略の遂行より、平和的国際関係の維持に転換。
明治以降昭和20年までの日本は、大陸に資源と市場を獲得し、それとの循環流通に国民経済の基礎を置いていた。それを維持するために常に戦争を準備し、いつでも対外的軍事行動がとれるという体制を保つことが国家戦略の根本であった。ここから「生命線を守れ」という主張が成り立った。
篠原氏意見として、(満蒙問題)の原点はここにあるとみる。
今の日本には特定の生命線を存在させてはならない。
2.現代日本経済論の出発点
日本の国家経済はこの国家経済戦略の大転換を頭に置かずしては、いくら欧米の経済理論や経済書籍をもってきても、何の役に立たない。日本経済は今一つ新しい戦術的転換点にさしかかっている。
日本経済は全世界的に資源供給地と市場を拡大し、かなり高度の繁栄を築きあげた。その発展と繁栄は、戦前の戦争国家戦略による特定局地を資源地と市場にしていた経済規模の範囲を全世界的に拡張したという平和国家戦略によって得られたものである。日本経済は自主的に相手を選び、主動的に自己の意思を決定し、実行することができるという自主自立の国家戦略体制をとることができる。この根本をはずれた一切の議論は、日本経済運用に口を出す資格のないものと知るべきである。
3.脱アメリカの日本経済
第2次大戦後の世界経済体制では、アメリカ経済の圧倒的優勢が特徴であった。その後日本、西ドイツ、イタリアという敗戦国の経済成長が目立った。そして最近の世界経済の特徴は、アメリカ経済力の相対的減退と、ヨーロッパおよび日本を中心とした有色人国家の経済力の相対的増大ということである。
第二の特徴は、ソ連その他の社会主義諸国の経済も、西ヨーロッパに次ぐ進展を示し、しかもそれらは資本主義諸国との間の経済交流を深めてきたということである。
第三の特徴は、ラテンアメリカ、中国、アラブ・アフリカ、日本以外のアジアの新興諸国の経済が次第にその力を高めてきているということである。
4.新しい市場、アラブ・アフリカと中国
日本経済発展の根本は経済接触点の発展にある。
アメリカのクシャミが日本のインフルエンザを生むときからの脱却を図らねばならない。その対象国としてアラブ、アフリカ、中国が挙げられる。これらの国とは、かってのイギリス、フランスのように、相手を貧困状態に置くことではなく、相手を富ますことが両国の基本的利益になることを認識することである。
さらに篠原氏は、戦前の経済問題として以下の2点を取り上げた。
① 「日本経済は明治33年以来今日に至るまで常に世界第一、第二の成長率を保持していた」(明治33年―1900年、北清事変で日本が世界に登場した年)。
② 帝国国防方針(明治40年)  第一次西園寺内閣
国防方針―我国権を侵害せんとする国に対し、少くも東亜に在りては攻勢を取り得る如くするを要す。
将来の敵と想定すべきものは、露国を第一とし米・独・仏の諸国之に次ぐ。
日英同盟は確実に之を保持すると同時に、務めて他の同盟をして成立活動せしめざる如くするを要す。
守勢国防からの転換。
統帥側意見―「国防方針は政策に至大の関係を有するを以て、更に之を内閣総理大臣に御下問あらせられ審議せしめられたき旨奉答す」
西園寺内閣は審議せず。
     ↓
日本国防の悲劇
  この結果もあり、国防については文官の制御が効かず、武官の独走を許すことにつながったのではないか。

「日本経済観察の出発点」
1. 日本人はエコノミックアニマルか?
エコノミック・アニマルといって日本人を非難している底意は、一つは欧米以上のスピードで発展することに対する岡焼きであり、二つには、日本商社の一部が外国市場で行うガメツイ商法に対する非難である。前者は他よりすぐれて発展する者が当然受けてよい羨望なのであって、あえて悲観をする種にはならぬ。後者のような、商業道徳に反する行為、自分の利益だけはかって、相手の利益を無視するやり方は、日本商社の中にはかなりある様である。これは当然やってはならないし、日本人と日本の政府で取り締まって然るべきである。しかし、こういう行動は日本商社だけがやって外国商社は全然やらないかというと、決してそうではない。日本の経済進出のスピードが他国に比べて早すぎるので、悪の面が特に目に立ち、インフレ―とされて報道されるのであろう。
エコノミック・アニマルと批評されたということと、日本経済の優欠点とはあまり関係がない。関係をつけてしまうのは、日本人の一部の者が、外国人が言ったとなると、すぐありがたがって自分の言論の後押しに使おうとする悪癖からである。こうした気分を取り払わぬと、日本経済をまともに観察し、分析し、方策を打ち出すことはできるものではない。この気分が公害から物価、経済成長その他の基本的経済国策論にまで影響してしまうからである。
2. 日本経済の基本的事実
日本経済の基本的事実は、国内では重要原料は100%近くを海外から獲得せねばならぬということである。日本1億の人間は、海外から原、燃料と食料を入れて加工し、自らの衣、食、住をまかない、自分の使う分だけの支払いは、加工したものを輸出して、付加価値の差で行わなければならない。この国土の上で生産される食料で、工業の援助生しに人口を養うとすれば、八千万人は餓死せねばならぬ。
3. 日本経済の運命的構造
日本は工業を発展させなければ国民生活の向上はないばかりでなく、食物すら1億人の口に、生きてゆくだけ入れてやることができないという結論が出る。
工業成長と福祉との矛盾などという問題の立て方は日本にあってはナンセンスに過ぎぬ。福祉を増加するためにはどうしても工業を伸ばさなければならない。これが日本経済の運命的構造である。
4. 福祉の出所は工業
日本国民が自分の二本の腕で工業を動かし、輸出輸入の付加価値差額でつくり出さなければならない。日本にはその金を生み出すような貯蔵金もなければ、ブクブク湧き出す油田もない。これだけの投資をして燃料を手に入れなければ、工業が成り立たず、国民経済は成り立たず、もちろん福祉の出所もなくなる。
日本の一部にも農本主義者がいる。しかし彼らの実際の生活をよく分析してみたらよい。それは周囲に工業があるから、衣、食、住ともすべてその工業にささえられてはじめて「農本」を主張しておれるのである。
5. 本物と偽物を見分ける基準
人口はふえるものであって、これは生物学的本則であるとともに、特に人間は、環域の障害を自分の力で克服して、常に増加発展にもってゆく特性をそなえている。人間の経済は常に増加する人口に上まわる生産の発展を作り出してゆく。日本経済もこの普遍性の適用をうけぬわけにはゆかない。その普遍性に加えて、さらにそれを加復する上にのべた特殊性を具えているのが日本経済である。だから基本的方向は発展にあって、後退にあるのではない。この戦略にはずれた戦術はまちがいであり、結局は失敗せざるを得ない。日本経済の観察と分析には、この基本的判断を失ってはならない。
現在の世界情勢と日本の国防の在り方
以上、「国家経済戦略の転換点」、「日本経済観察の出発点」読んでみて、改めて現在の世界情勢を顧みると、中東地域での戦争状態、各国間での領土問題等多くの課題が存在している。戦後、我が国の国防はアメリカの軍事力に依存し、平和憲法を旗印に本格的な軍事力を持たずに経済活動に重点を置いて来ているが、今後の世界情勢の変動等に備え、今我が国の国会で審議されている安保体制の見直し等、どのようにこの国を守るのか真剣に議論する必要があろう。