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2015年12月14日

平成27年12月例会報告

日時  : 12月10日 木曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ :「悲劇の再発防止」とは。東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓から考える
    第3回

場所  : 港区新商工会館
参加費 : 1000円
担当  :郷津 光

急遽前月の第2回に引き続き12月例会も私郷津が発表を行う事となりました。下記ご報告となります。
【2011年3月11日以前の流れ】
1980年代後半から、チェルノブイリ原発事故発生を契機として、日本国内の通産省他が同様の過酷事故(シビアアクシデント)を想定した対策の検討が開始された。しかし、結果として2011年3月11日時点での原子力保安院における最悪の事故想定(原災法15条該当事象)は、日本国内で発生した過去の事故(JCO臨界事故)を超えるものではなかった。
2004年12月26日発生のインド洋大津波により、インド・マスドラ原発の非常用海水ポンプが運転不能に陥った事態を受けて、2006年1月に保安院とJNESが溢水勉強会を設置。2006年5月東電は保安院に福島第一原発5号機の想定外津波について検討状況を溢水勉強会において報告。当該報告によって、従来想定約6mを超えるO.P.+10mの津波到来で炉心損傷に至る危険性、O.P.+14mの津波到来で全電源喪失に至る危険性が、東電と保安院で共有された。
2006年9月、新たな「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(新指針)」の原子力安全委員会での正式決定を受け、保安院は新指針に照らした耐震安全評価(耐震バックチェック)の実施と実施計画作成を原子力事業者に要求。2006年10月保安院担当者が、耐震バックチェックに係る全電気事業者への一括ヒアリングにて、「バックチェック(津波想定見直し)では、(中略)自然現象であり、設計想定を超えることもあり得ると考えるべき。津波に余裕が少ないプラントは具体的、物理的に対応を取って欲しい。」「想定を上回る場合、(中略)そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない」「各社重く受け止めて対応せよ」「今回は、保安院としての要望であり、この場を借りて、各社にしっかり周知したものとして受け止め、各社上層部に伝えること」との内容を口頭で伝えた。
その後2007年新潟県中越沖地震が発生、東京電力柏崎刈羽原発構内で火災が発生、大々的に報道される。
2008年3月東電が福島第一原発(以下1F)5号機・福島第二原発(以下2F)4号機に係る中間報告書を提出。
2008年5月~6月にかけて東電は、2006年10月の保安院担当者口頭指示を受けて地震調査研究推進本部公表「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について(福島第一原発沖を含む日本海溝沿いで、マグニチュード8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると予測。)」に基づき津波高を試算。従来の想定(約6m)を大幅に超える想定津波高の数値(福島第一原発2号機付近O.P.+9.3m、5号機付近O.P.+10.2m、敷地南部O.P.+15.7)を得た。
2009年6月および7月に総合資源エネルギー調査会専門家会合にて東電提出の耐震バックチェック中間報告(1F5号機・2F4号機)を評価する際、委員から非常に大きな津波が福島県に到達していたとの指摘。貞観三陸沖地震・津波を考慮すべき旨の意見が出された。2009年7月保安院が1F5号機に係る耐震バックチェック中間報告の評価結果を取りまとめ、津波評価はせず耐震安全性が確保されると結論。
2009年8月~9月に東電が津波評価に関し、保安院審査官へ、貞観津波波高は東電計算の結果1FでO.P.+9mである事を説明。
2010年3月1F3号機プルサーマル導入に関して、福島県知事が保安院へ1F3号機の耐震安全性評価を求めた。特別扱いとして実施された1F3号機耐震バックチェック中間報告評価の際、保安院担当審議官が、保安院長・次長に貞観地震による津波評価が最大の不確定要素である旨説明。2010年7月に保安院は1F5号機同様津波評価をせず東電提出の1F3号機に係る耐震バックチェック中間報告の評価結果が妥当である旨報告。
2010年東電が福島地点津波対策ワーキング(第1回)を開催。その中で従来想定の最高津波波高は6.1m、しかし推本知見・貞観津波を受けた社内計算の最高津波波高はO.P.+15.7mであると評価していた。

【実態】
耐震バックチェックに関して、規制当局は、炉心損傷・全電源喪失の危険性という重大・致命的なリスク情報を把握し、津波評価に関して全電気事業者に強い指示・警告を発し、また津波評価が最大の不確定要素との認識があったにも関わらず、事故以前事業者の津波対策に関して進捗状況を管理していなかった。
事業者は、経営層において「コストカット」と「原発利用率向上」が重要な経営課題として認識されていた。また経営層が用いる「経営で管理すべき重要リスク」等では、自然災害等に関するリスクは稼働率低下・信頼失墜の要因として扱われ、原発の過酷事故に繋がるリスクとして扱われる事はなかった。安全確保は専ら現場(「原子力の安全はライン業務の中でしっかりと担保すべきものであり、また大前提である」:国会事故調報告書本文5.3.1(2)会議及び管理表で取り上げられるリスクの傾向)の役目となっていた。
立法府・司法も規制当局・原発事業者の高い専門性の壁を超える事は出来ず、具体的対策は規制要件化される事はなかった。
結果、日常業務で担保不能な安全性(大規模自然災害対策や過酷事故後の被害拡大防止、日本国内で未発生の事故対応等)について、積極的に対応、推進、指導、監視・監督する者が、日本国内に誰も存在しない状況が発生したと言える。

【リスク把握の特徴】
? 科学的に発生が予想されたとしても、日本国内で未発生の事態に関して、その対策の多くが規制要件ではなく「事業者の自主対策」となる傾向がある。
? 経営層と現場とで分担すべきリスクが存在するにも関わらず、安全性について現場が担保すべきとされる傾向がある。
? 民間企業に共通して求められる利益最大化の姿勢の中で、総合的なリスク把握並びに脅威判定が後手に回り、実際起こった事故・不祥事の再発防止にかかりきりになりやすく、結局潜在化したリスクに対する脆弱性の放置が更に助長される傾向がある。
? 安全性に関する優位性の宣伝効果・企業イメージ向上を目的として、明白かつ有名で象徴的な弱点(過去に起こった事故の直接的原因)にだけ安全対策を注力する姿勢がとられやすい。
? いまだ発生した事実がなく確率論的なリスクについては、その発生確率把握が、脅威の順位付けではなく、専らリスクが小さい=対策が不要である事を示す証拠として用いられる傾向がある。結果として高い発生確率を示す根拠=対策が必要である事を示す根拠については不確かさを理由に選択的に排除・非公開にされやすい。

【潜在的リスク把握に関する具体策一例】
事業者が、自らの根源的弱点を強く自覚し、可能な限り広範囲から安全性に関するリスク情報を収集し、安全への脅威に関する順位付けを行い、可能な限りリスク想定の範囲を押し広げ、利害関係を有しない他の業界・業種からの意見も積極的に取り入れ、リスク情報を共有する事が必要となる。また、脅威の順位は日々変動する事も自覚し、定期的・機械的に更新していくことが必要となる。さらにリスク判定に関する専門職を設置し、経営から独立して安全性に関するリスク情報を把握・更新・助言できる能力を習得させる。独善に陥らない様定期的に外部との交流を行う。さらに、膨大な量の対処不能なリスクの存在を自覚し、最悪の事故・事態は起こる前提で、それに向けた対策を対策進捗の如何に関わらず独立して行う。その上で、逆算的に把握された弱点についても対応する。

【事業者による自主対策の限界】
自主対策である以上、上記の様な極々当たり前の対応ですら実行するかしないかは、企業経営者の善意に委ねられる事となる。経営者の大きな役割の一つが企業活動にける利益の最大化である以上、実行されない方向に対して大きく傾斜していると考えられる。
本来であれば規制当局が、中立・公平・独立・高い専門性から上記の様な極々当たり前の対策を企業に対して要求・規制要件化すべきであるが、現状不確実なリスクに関しては往々にして自主対策となる傾向がある。

【安全性に関する不作為を許容する構造】
企業内において経営者と現場、双方が担保すべき安全性が存在する事を説明した。
企業とその外縁についても同様に分担して担保すべき安全性が存在する。安全性の第一義的責任者である事業者、安全の確保が万全であるか監視・監督する規制当局、規制当局が必要とする権限・能力を法律によって与える立法府、個人の尊厳を基本として身体の安全を第一に判断を下す司法、それぞれが期待される安全性に関する役割が存在する。
今回の事故では「まだ日本国内で発生していない規模の大事故である事」を主な根拠として、その全てが機能不全に陥った。
これは「原子力ムラ」という単語に象徴される様に、原子力産業固有の構造であろうか。もし同様の構造が、他の分野で存在する場合、上記と同じような経路をたどって、致命的なリスク情報が大々的に放置され、結果として巨大な事故・不祥事を生じさせる可能性があると言える。
もちろん、他の分野の企業経営者が、「今回の事故とその原因を作り出した構造は原子力業界固有のものだ」としつつ、将来の起こり得る危険に関する情報を、規制当局の不備をもって無視し続ける事も出来る。「起こるかもしれない事は可能な限り起こらない前提で動く姿勢」を続ける事で、安全性を考慮しない見せかけの利益を獲得する事も出来るだろう。しかし、一度大規模な事故・不祥事を起こし、その際に経営者が「想定外であった」と無責任に繰り返せば、企業の社会的信頼が大きく毀損される事は今回の事故からも明白である。
日本国内の企業経営者は、企業価値向上を目的として、この様な国内の構造的弱点を強く自覚し、潜在的リスク把握に関する教訓を積極的に習得すべきではないだろうか。
【主な参考文献】
(1).東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(2012)『国会事故調報告書』徳間書店。(2).古川元晴・船山康範(2015)『福島原発、裁かれないでいいのか』朝日新聞出版。

平成27年11月例会報告

日時  : 11月12日 木曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ :「悲劇の再発防止」とは。東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓から考える第2回
場所  : 港区新商工会館
担当  :郷津 光

【 課題 】
東京電力第一原子力発電所事故は未だに継続中の事故である。住民避難は継続され、震災関連死は増え続けている。また、原発事故に関連する人々の動きは記憶に新しく、更に事故以降は人名・行動・結果が一連である為わかりやすく、特定個人の責任糾弾が主な関心事になりやすい。しかし事故原因は事故以前に形成されたものでもある。その点「事故前と事故以降」、どちらにより着目し教訓とすべきか、問題となる。
【東日本大震災を起点に急速に拡大した混乱】
 原発事故に関連し、主に3つの領域、①指揮命令系統②現場対応③住民保護・避難で混乱が急速に拡大した。(国会事故調報告書)
① 指揮命令系統の混乱
過酷事故・複合災害に対する事前の備え・対応する規則等が存在しなかった事から、応急措置・政治決断の連続となり、首相官邸・東電本店を頂点とした指揮命令系統は著しく混乱した。(主に報告書第3部「事故対応の問題点」)
② 現場対応の混乱
東京電力福島第一原発では、過酷事故が起こる事態を想定せず備えもなく、配管図面の不備等も長年放置され、また多くの重要設備が電源の存在を前提としていた事等から、電源を喪失した複雑な原子力発電設備を前に作業員・運転員の事故収束活動は臨機応変対応の連続となり、構内は著しく混乱した。(主に報告書第2部「事故の進展と未解明問題の検証」)
③ 住民保護・避難時の混乱
インフラ・交通網が大規模に崩壊する中で、想定外の避難となった病院や介護老人保健施設の避難は困難を極め、著しく混乱が拡大。入院患者・入所者から60名もの死者が発生した。(報告書第4部「被害状況と被害拡大の要因」)
【 混乱の共通原因 】
今回の様な原発の過酷事故が、2011年3月11日時点の日本国内では「想定外」とされていた為、原発周辺住民はもとより事業者・政府すらも何の準備もしていなかった事が混乱の共通原因となった。備え・準備とは、事故前に為すべき事柄であり、混乱の再発防止を仮に願うのであれば、事故以前に着目する必要があるといえる。下記、国会事故調報告書の中から、今回の事故・混乱の原因を形成した「耐震・津波・シビアアクシデント・複合災害」について、過去どの様な事柄が起こっていたのか抜粋する。
【 事故以前に何があったのか 】
? 津波対策
1995年1月に発生した阪神淡路大震災を発端に文科省に設置された「地震調査研究推進本部(以下、推本)」が、2002年7月に公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について(以下長期評価)」内で、福島県沖を含む日本海溝沿いでM8クラスの津波地震が30年以内に20%の確率で発生すると予測される。2006年発生のインド洋大津波・宮城県沖地震を受け、2006年5月に東電は想定外津波が1F5号機に襲来した場合津波高さOP+10mで炉心損傷の危険性。津波高さOP+14mで全電源喪失の危険性があると保安院に溢水勉強会の中で報告。2006年10月の保安院による全電気事業者への耐震バックチェック一括ヒアリングにて保安院担当者が「(津波高さが)想定を上回る場合(中略)そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない」「各社重く受け止めて対応せよ」と溢水対策について口頭で強く警告・指示。東電は上記指示を受けて約1年半後の2008年5月に推本の長期評価(2002年)に基づく津波高を試算し、従来想定(約6m)を大幅に超える想定波高(1F2号機付近OP+9.3m1F5号機付近OP+10.2m、1F敷地南部OP+15.7m)の数値を得た。2009年から東電が福島県沿岸の津波堆積物調査を開始(東北電力は20年以上前に実施。2007年の時点で東北大学が1F周辺で堆積物調査を行い貞観地震を含めた5回の大津波の存在を認識)。2009年6月に東電は保安院に貞観津波波高が1Fで従来想定を大幅に超えるOP+9.2mである事を説明。2010年3月1Fプルサーマル導入に関する安全性評価では保安院が「1F3号機の耐震バックチェックでは貞観地震による津波評価が最大の不確定要素」と担当審議官が保安院長・次長に説明。
? 耐震対策
1995年1月に発生した阪神淡路大震災の影響による、耐震工学に対する国民の不信感および、原発施設の耐震設計審査指針が古いとの疑問の顕在化を受けて内閣府原子力安全委員会が2006年7月に耐震設計審査指針を改訂。2006年9月に保安院が新指針に照らした耐震安全性評価(耐震バックチェック)の実施と実施計画作成を原子力事業者に要求。2006年10月東電提出の実施計画書に記載された耐震バックチェック最終報告書提出期限は2009年6月末とされていた。しかし、東電社内会議では、2009年時点で最終報告書提出予定は2012年7月、2010年6月時点で電事連取りまとめにおける提出予定は2010年9月末以降、東電内部資料によると2011年3月11日時点で提出予定は2016年1月となっていた。途中1F5号機と3号機のみ中間報告を保安院が評価するも評価した箇所は原発設備内の極一部に限られた。2009年の東電社内会議では耐震バックチェック最終報告提出予定が2012年7月である点について「国及び地元の許容範囲を超えている」という問題の指摘もあった。
? シビアアクシデント対策
1979年のスリーマイル島原発事故および1986年発生のチェルノブイリ原発事故によって米国・欧州・IAEAの過酷事故対策は大きく発展した。しかし、日本国内ではSA対策は規制要件化されず「知識ベース(自主対策)」とされた為、実効性のないものになった。1991年時点で具体的不都合発見が期待されていたPSAも長年実施されず。また1991年から1996年にかけてアメリカで実施された外部事象(自然災害等)を含めた確率論的安全評価「外部要因評価(IPEEE)」を受けて2004年に事業者・規制当局双方で実施した地震PSAでは、国内の炉心損傷頻度の基準大幅超えプラントが多数存在。電事連・事業者間の議論によって公表されず。2009年電事連資料では、外部事象の確率論的安全評価は2018年前後をめどに試評価、2023年ごろに安全規制を本格化予定に。また2010年電事連議論において「確率論に基づく検討を行う際には内部事象を対象とすることと」とされた。PSAの評価対象を内部事象(機械故障・ヒューマンエラー)に限定した結果、海外と比較して炉心損傷確率が低く高評価となりSA対策改善を更に怠る結果に。また日本におけるSA対策はIAEAの5層の深層防護(1996年)における設計事故(第3層)までを対象としており、設計基準事故を超える事故は過去日本国内で起こった事故について想定し、しかも自主対策で、放射性物質の漏洩・飛散等避難を要する第5層の事態は想定外のままであった。また原発設備について、1991年から原子力安全委員会等で長時間全電源喪失(SBO)を原因にした炉心損傷の危険性について議論されていたが、結局1993年に長時間SBOは考慮する必要なしと判断され、しかもその報告書は非公開とされ、以降長時間SBOへの備えに関する制要件化等は長期間放置された。
? 複合災害対策
2007年に発生した新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所内での火災を発端にして、新潟県を中心に原子力発電所が大規模自然災害によって被災し、もしくは被災することが懸念される場合も含んだ複合災害の想定に関する要望が保安院とその他の関係機関に出された。しかし、保安院は2009年に「複合災害は蓋然性の極めて低い事象であるため、複合災害への対応は、現在の原子力の防災体制を基本に、効果的かつ効率的な対応を検討することが合理的」との素案を原子力防災小委員会に提出。消極的な姿勢を続けた。また国や自治体が、既存の原子力防災体制との整合性や検討プロセスに拘ったことが、原子力地域防災計画の早期見直し実現の障害となり、結果として住民の安全確保が実現できなかった。
【 事故以前、東電は何を重視していたか 】
「コストカット」及び「原発利用率の向上」(報告書p483「5.3.1東電のリスク管理体制の問題点」)
【 教訓とは何か 】
? 誰の教訓となるのか。
膨大な対策費の必要性が予想された地震・津波対策について、対応出来たのは勿論経営層であった。津波の様な大規模自然災害は、原発構内の運転員・作業員が臨機応変の対応でその発生を防ぐ事が不可能である以上経営側による事前の備えこそ必要な対策であった。
? 大企業・原発産業特有の教訓なのか。
コストと安全の衝突、潜在リスクの早期発見と事前の備えの重要性は、あらゆる事象に共通する課題であり、如何なる場面でも活用可能な教訓であると言える。
? 報告書の事実をどう活かすのか。
原発事故との差異を強調すれば国会事故調報告書の内容は何の教訓にも成り得ない。報告書記載の事実の中から自らの抱えるリスク問題との共通点を探し、考え、行動に移すことこそが重要となる。また、安全費用捻出の為の根拠・前例を示す必要がある場合に利用する事も可能ではないだろうか。
まとめ
対処可能な安全対策に関する要望を指して「ゼロリスク幻想」だと糾弾するのは容易い。今までと同じ過去に起こった事故にのみ対応するリスク管理で十分だとする事、継続的な安全対策の拡大を放棄し現状維持に徹するのも容易い。規制当局への報告書の分厚さだけを根拠に規制が厳しいとぼやくのも自由だ。しかし急加速する高度科学社会において事前の安全策を怠れば即大事故に繋がり、結果的に科学社会の破壊・停滞を引き起こしかねない状況である以上「事前の安全策の実施」は欠かすこと・戻ることの出来ぬ必然的な安全対策に関する社会的な要求と言えるのではないか。発展性と安全性の両立は当然であり、求められる安全性の向上を顧みない発展は砂上の楼閣と同様である。寧ろ、今回の事故で明らかとなった事態を教訓に、様々なリスクを積極的に把握し的確に対処出来る能力を獲得する事こそ、真に社会が継続して発展し得る道だと確信する。上空を飛ぶ旅客機の過密が叫ばれて久しい昨今、世界各地に設置されているレーダーを停止させ、旅客機の操縦手の目だけに頼った安全対策に戻し、パイロットの勝手気ままに旅客機を航行させろと主張する人はいないだろう。しかし、この安全対策が実施されるまでには航空機同士の空中衝突事故等の膨大な犠牲が伴っている。今回の事故で発生した犠牲もまた無駄にしてはならない。さらに「経営層向けの教訓」であると先に解説したが、この世界に生きる一人ひとりが、己が人生を統べる経営者でもある。国会事故調報告書の記載内容をきっかけに、一人ひとりが自らの重要性に気付き、リスクと向き合いつつ積極果敢に人生を切り開く道を歩んでいってほしいと願っている。
【 主な参照文献 】
「国会事故調報告書」、「福島原発、裁かれないでいいのか(古川元晴・船山康範)」