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2018年1月16日

平成30年2月例会報告

日時  : 2月8日 木曜日 18;30 ~ 21;00
テーマ :北朝鮮情勢をどう見るか
場所  : 港区商工会館
参加費 : 1000円
担当  : 篠原 昌人

△ 我が北朝鮮感
 最初に自身の北朝鮮に対する印象を述べようと思います。過去二度の訪問から感じた見聞記で、机上で論じるよりは具体性を感じていただけると思います。
―静かなる首都
昭和60年、社会党の田辺誠さん等と一緒に新潟から船で北朝鮮に向かいました。一泊二日の船旅で、東海岸の元山から高速道路を通って首都平壌に着きました。高速道路はもちろん舗装道路ですが、かなりのデコボコがありました。平壌は人口二百万といわれますが、印象では非常に静かな都市だということです。
往来を歩いていても、人の話し声が聞こえない。笑い声が聞こえない。もちろん人は歩いている。皆さん静かに話をしているんですね。デパートに行っても、いらっしゃいませ、という声はない。客と店員はヒソヒソと話をしています。雑音、生活の音が感じられないわけです。
―暗いところと明るいところ
平成2年、今度は北京から空路平壌に入りました。空港から市内まで一時間余りですが、その間対向車は一台もありませんでした。平壌の夜は暗いです。もっとも東京が明るすぎるのでしょう。でも市内のある場所に行きますと、まばゆいばかりの明るさなのです。そこは招待所と呼ばれる接待施設で、この時は与党訪朝団だったため特別なところに招待されたのでしょう。とにかく電力の使い過ぎではないかと思ったくらいです。招待所にもレベルはあるようで、かって金丸信さんが訪れた時は、百花園招待所という最高級の場所だったようです。
―板門店の南と北
南北対立の象徴というと板門店が浮かびます。朝鮮戦争の休戦会談場となったため、広く知られるようになりました。この板門店は一種の観光名所になっており、韓国では大韓旅行社が外国人向けのツアーを組んでいます。私は南からも北からも板門店を訪ねることができました。同じ場所を訪問しても受ける感じは全く違うのです。南から行きますと、臨津江(イムジンガン)を渡り、アメリカの軍事基地を左右に見ながら行きます。緊張感漂うなかを進むわけです。ところが北からの印象は全く違います。板門店への道には軍事基地は見られません。のどかな田舎道なのです。ですから一見、南のほうは戦争の継続を思わせ北は平和的なんです。
△ 北朝鮮核兵器開発の理由
一見平和な風景を見せる北朝鮮が、どうして長距離ミサイル、果ては核兵器にまで手を伸ばすのでしょうか。三つ考えられます。北は国連加盟国です。国連の中心を占めるのは常任理事国です。その、米ロ中英仏の五国は全て核兵器保有国です。つまり核兵器を持つことが大国の姿なのです。このように北朝鮮は考えているのだと思います。①大国としての資格を得ること。この資格は政治的な理由ですが、この力を背景に外交的な理由につながります。アメリカと日本です。現在北とこの両国は国交を開いておりません。ベルリンの壁崩壊を機に、韓国は中国、ソ連と国交を樹立しました。当時は社会主義体制の変換のなかで、北朝鮮も変わって来るだろうという期待がありました。早晩、アメリカと日本が北と国交を開くという観測が有力でした。ところが現在に至るも実現しておりません。北は今、日本海にミサイルを撃ちこむことで日本に、太平洋に向かうミサイルでアメリカに交渉を迫っているわけです。即ち、②日本、アメリカ国交樹立への圧力。最新兵器の保有は何といっても軍事優位を得ることにあるでしょう。ことを決する有力な手段は戦力ですから、極めて常識的な見方でしょう。③対南軍事優位の確立。
△ 米朝軍事衝突の可能性
昨年一年間は、全く北朝鮮のミサイル発射、核実験に振り回されました。これに対しトランプ大統領が強硬な反応を示したため、一挙にアメリカが北を攻撃するという米朝開戦が騒がれたわけです。文芸春秋の二月号に、「米軍攻撃 決断のときは三月だ」というスクープと称する記事が載りました。要点はICBMやら生物兵器弾道ミサイル、SLBMの性能向上が進み、三月を超えるとアメリカとしてはほおっておけなくなるというのです。また一月十四日の産経新聞に、今年の十大リスクというのが載りました。当然朝鮮半島は上位だろうと眼を凝らしたわけです(米調査会社ユーラシアグループ)。トップは、力の空白と中国の影響力の増大、二番目は偶発的なアクシデント、三番目が世界的なテクノロジーの冷戦です。以下色々と出てくるんですが、北朝鮮問題は出てこないのです。核問題を取り上げているのはイランです。アメリカから見ると北よりもイランの方が脅威と映っているのでしょう。この予測は中国をトップに置き、イランを重視している点で欧米人の感覚をよく表しています。それでは衝突はあるのか。アメリカも北も自国に実際の被害が及ばなければ、戦争にはならないと思います。イラクによるクウェート侵攻、イスラム主義者によるNY攻撃があったため、アメリカは軍事行動を採ったわけです。北が核兵器を持ったとしてもアメリカの戦力からすれば比較にはならない。だから是が非でも軍事力を使うとは考えにくい。北とすれば、核は大国としての資格要件のようなものですから、アメリカが明らかな攻撃態勢を執らない限り、軍事行動には出ないでしょう。でもある考え方によっては、軍事力が使われる可能性があります。それは、「侵略者は平和主義者である」という言葉です。これは一種奇妙なものです。悪の代名詞とも言うべき侵略者がなぜ平和主義者なのか。この言葉は、クラウゼヴィッツの『戦争論』に出てきます。この書はナポレオン戦争を基本に書かれていますので、現代とはかけ離れたところがありますが、危険な芽は事前に摘み取るのがよいという考えです。まだ侵略イコール悪という考えは希薄でした。盛んに軍備を拡大している国は、こちらから侵略して未然に防ぐのがよいということです。現代国家がこれを採用しますと大変なことになりますので、各国は様々な手段で自制しています。しかし実行した例があるのです。1981年か82年だったかと思いますが、イスラエルがイラクの原子力施設を空爆して破壊しました。核兵器開発阻止のためでした。イスラエルにすれば、自国のみならず中東地域の平和のために侵略を行ったのです。不思議なことにこれによって第五次中東戦争は起こりませんでした。国際的な非難は巻き起こりましたが、エジプトもヨルダンもシリアも何もしませんでした。当時はイランイラク戦争の真っ最中であり、新たな戦争はできなかったのかもしれません。ですからこういう前例から、アメリカが踏み出す可能性は存在するのです。
△ 第二次朝鮮戦争の可能性
米朝戦争は、条約上は南北戦争に直結しますので区分けはできないのですが、北の核兵器が南に与える影響ということで考えてみます。どうも観察するところ、韓国民は北の核に対して無関心のようです。では政府はというと、特別の対策を執っているようには思いません。北が核を持ったからといって、南侵の可能性が強まったとは見ていないようです。かっては北の危険度を観測する方法として、ソウル北方の地価を観ることが言われました。北の攻撃近しとなれば地価は下がるからです。ところが80年代以降ソウル周辺では様々な再開発が進み、今ではソウル北側に立派な新都市が出来上がりました。本来北側は危ない筈なんですが、ソウル市内が満杯ということもあってかお構いなしです。去年一年間でソウルの地価が大幅に下落したこともありません。要するに韓国は、言って見れば北慣れしているのです。では南北の間は平和かというとそうではありません。時折軍事境界線をめぐって撃ち合いがあったり、沖合の島をめぐって衝突したりします。どちらが先に手を出すのかは双方主張がありますが、北のやり方を観ているとDMZ(軍事境界線)を大きく超えることはありません。限定的なんです。かっては朴大統領暗殺を狙った青瓦台襲撃事件、東部山岳地帯へのゲリラ侵入、ビルマでの全斗喚大統領暗殺未遂事件、大韓航空機爆破事件など大規模なかく乱戦法を執りましたが全て失敗しました。北は今は若い指導者の下で只管体制維持に集中しています。南は無関心となれば、南北間で戦争は起きにくいのです。
△ 日本の対応策
このように戦争の発生はゼロではないにしても非常に低いのです。しかし日本は安閑としているわけにはいきません。周辺情勢の変化をとらえてより前向きな対策を打ち出さねばなりません。日本周辺には先ずソ連の核兵器がありました。続いて中国の核兵器が表れました。今回北朝鮮の核が出現したわけです。中ソの核兵器に我が国は対してきたわけですから何も慌てることはない。対応には三つの方法があります。核兵器には核兵器を以てあたるというのが、自然と出てくる方法です。①核兵器保有論。しかし日本はNPT(核拡散防止条約)加盟国ですから、脱退しない限り核武装はできません。二番目は核兵器は持たないが、他国の核に依存する方法です。日本は現在この方法を採っています。②いわゆる核の傘論。日米安全保障条約第五条から来る共同対処ですが、片務的であるのは間違いありません。この二つは脅威対抗論ですが、発想を転換して新しい防衛策を導入することが考えられます。今までの政策から転換するということで、③無視策、と名付けましょう。それは守りの態勢を強めようというものです。現代は誘導兵器の時代であり、現に北朝鮮は長距離ミサイルの発射実験を繰り返しました。それならば国民の退避施設を作ったらどうか。全国に隈なく防衛施設を作ることはできないでしょう。でもいくつかの地域でいくつかのビルを指定するなり 、シェルターを建設することも考えられるでしょう。自衛隊で言えば、弾薬の増加、燃料の増加、基地機能の防衛力の強化です。継戦能力の向上、抗堪性を強めることです。このほど航空自衛隊はF35Bを買うそうですが、その最新機を入れる格納庫が脆弱であっては何にもならないのです。こうしたことで核攻撃を防げるわけではありません。しかし専守防衛とは国内戦であることを認識するならば、正面装備のみに集中するわけにはいかないのです。
△ 半島の将来
最後に南北関係について展望してみましょう。かって北朝鮮崩壊論がありましたが、北は依然として存在しています。どうも北が崩れ去っては周辺国は迷惑のようです。特に当事者の韓国自体が望んではおりません。日本では北の難民問題が話題になりますが、韓国の研究機関によりますと、朝中国境ルート、対南ルート、海上ルートの三つが挙げられています。これによれば日本に大量に押し寄せることは想定されておりません。韓国と北朝鮮は、これまで通り時には話し合い、時には非難の応酬をしあい、時には小規模の軍事衝突をしながら対立を続けていく他なさそうです。