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「ストレスと認知」

日時  : 9月11日  木曜日
      18:30 ~ 20:30
開催場所: 港区立商工会館 6階
担当  : 産業カウンセラー
       鈴木 房子

まず、立場の点検をさせていただきます。「産業カウンセラー」とは何か。病気のとき、皆さんは病院に行き、医師の診断を受け、治療を受けますね。「心」の病気の時は、精神科医とか心療内科医、精神内科医です。医師の下で必要な場合は心理カウンセラーとか心理療法士、臨床心理士という資格の人がカウンセリングを行います。これを、「企業」に限定した場合、医師は「産業医」で、その下で働くのが「産業カウンセラー」です。両方とも各々の資格をもっています。医者は病気を扱いますが、産業医と産業カウンセラーは、社員が病気になったら当然対応にあたらなくてはなりませんが、むしろ病気治療よりも「予防」に努めます。なにせ社員が病気になるということは会社にとって非常に大きな損失だからです。本人は十分な働きができないのに、会社は給料を払わなければなりません。上司は対応に時間も労力も気も使わざるを得なくなり、本来の管理業務が手薄になります。職場の他の社員におおっぴらに言うわけにはいきません(個人情報なので守秘義務があります)。でも周囲の人たちは気づいていて、それが職場のモチベーションを下げ、生産性が下がります。会社にしてみると、フンだりケッたり、というわけです。今、残念ながら、心の病に苦しむ人が非常に多くなっています。10年連続で自殺者が3万人を越え、その7?8割はメンタル的なことが原因と言われています。国としては当然放置できないわけで、対応措置のひとつが企業を単位とした「産業医」と「産業カウンセラー」です。企業の中では2割の人が何らかのメンタルな問題を有しているとも言われています。
私は20数年企業の教育コンサルタントや研修講師をしてきて、避けて通れない問題と考え、資格を取り、今は某企業で産業カウンセラーとして仕事をしています。

さて次に、この産業カウンセラーの資格取得の勉強の中に「ストレス」があり、結構専門的なことを学びます。情判会の今年のテーマとのことで、お声をかけていただきました。
ストレスとはカナダの生物学者セリエが提唱した概念で、「生体が外部から物理的・心理的・社会的な刺激を受けると、生体内部では刺激に順応・適応しようとする反応(防衛反応)が起こる。通常は刺激と反応は概ねバランスが取れている。刺激を『ストレッサー』、反応を含めた全体の概念を『ストレス』と言う。ストレッサーが大きく・強くなると、緊張・歪みが生じ、さらにその状態が長期にわたると、生体に支障が出る。これを『全身適応症候群』と言う。全身適応症候群は『警告反応期』『抵抗期』『疲はい期』と進む。反応には『身体化』『情動化』『行動化』の3種類がある。しかし、ストレスは『悪いもの』ではない。適度なストレスは交感神経系を目覚めさせ、判断力、行動力を高める。セリエは『ストレスは人生のスパイスだ』と言った。快ストレスは、運動によるストレスなどで、運動を行うと負荷が刺激になって体はさまざまな反応を起こす。それが適度であれば、爽快感を感じる。適度なストレスは交感神経系を活発化して抵抗力をつけるように働く。不快ストレスとは、過剰で慢性的なストレスで不快になったり、病気を引き起こす」
つまり、ストレスは決してまずいもの、悪いものではなく、「扱い方」が重要になってくるという点を、まずご理解いただく必要があります。例会にご参加いただいた皆様には、ストレスについての詳細や代表的病気である「うつ病」についてご説明させていただきました(ここでは省略します)。
私たちが生きて活動する社会でストレスはあって当然、ない方が異常です(何が正常、異常か。正常と異常と通常)。その中にあって、「ストレスと感じる脳細胞回路」を持っているのか、「ストレスと感じない脳細胞回路」を持っているのかが、ひとつ。次に、「ストレスにへたばる脳細胞回路」を持っているのか、「ストレスにへたばらない脳細胞回路」を持っているのかがが、もうひとつです(両面思考)。例会では城野先生の著述の中にピッタリな文章がありましたので、参考にさせていただきました。そして、「自分の意志で、どちらにもできる」という点を確認しました。

私が産業カウンセラーの理論・技法の中で強く興味を持ったのが『認知行動療法』です。脳力開発とよく似ていると感じたからです。簡単にご紹介します。『認知療法』はペンシルバニア大学のベックが創始した心理療法・精神療法で、ベックはたくさんの患者の治療を行い、「うつ病患者には“体系的な推論の誤りがある”」と指摘しました。本人が意識せずに考えて(もしくは、感じて)しまうので、これを「自動思考」と言い、そのために心を病み、うつ病の症状が出てくると言いました。さらに、「うつ病患者の認知の根底に、“独特の信念や構造がある”」ことを指摘して、これを「スキーマ」と呼びました。
私は、脳力開発の「基礎11の指針」は、まさしくこれに当たると思ったのです。脳力開発の講座の中では、「本人が意識していればまだしも、本人はまったく気づいていません。意識していないので、脳細胞回路の出来具合と言っていて、無意識のまま『人だより』『現状に甘んじ』『自分だけよし』をやり、『混乱』『片面』『一方的立場』『確定的でないまま』『抽象的にわかった気になり』、判断を狂わせて人間関係を壊す。また、良い行動ができないので、良い結果に至らない」と言っています。『認知療法』と照らし合わせると、スキーマが『精神姿勢の確立』、自動思考が『思考方法の整備』に当たるでしょうか。以下に、比較的分かりやすい「推論の誤り」をあげておきます。ご自分でチェックしてみてください。
1.ものごとを白か黒かのどちらかで考える
  思考法:全か無か思考
2.たったひとつ良くないことがあると、世
  の中すべてそうだと考える:一般化のし
  すぎ
3.たったひとつの良くないことばかり何度
  も考える:心のフィルター
4.良い出来事を無視してしまう:マイナス
  化思考
5.根拠もないのに悲観的な結論を出してし
  まう:結論の飛躍
6.自分の失敗を過大に考え、長所を過小評
  価する:拡大解釈と過小評価
7.理性的に物事を評価せず、自分の感情で
  評価してしまう:感情的決めつけ
8.何かするときに「?すべき」とか「?す
  べきでない」と考え、そうしないと罰で
  も受けるかのように感じる:すべき思考
9.「自分はだめ人間だ」のように極端な形
  で一般化してレッテルを貼ってしまう:
  レッテル貼り
10.良くないことが起きると何でも自分のせ
  いにしてしまう:個人化
健康な精神の持ち主なら、苦笑いしながら「そんなのはあり得ないよ」とおっしゃるのでしょうが、うつ病の方は「そう」なのです。以前私がカウンセリングさせていただいた方は、全項目が当てはまりました。日常生活のすべてが、こんな考えや感じ方をベースにしているのですから、そりゃ、苦しいですよね。それが、うつ病です。こういう考えや感じ方を持っている方が、うつ病になりやすいとも言えます。ぜひ皆さんには正しい脳細胞回路をお持ちいただき、健康な心で毎日をおすごしいただきたいと思います。また、心を病む(もしくは病みそうな)方に、脳力開発をご紹介いただいて、元気に明るく、たくましく、このストレス社会を乗り切っていきたいものです。
(参加者の方からの質問にお答えして)
多くの方が「カウンセラー」というと、穏やかな表情で、何を言ってもフンフンとうなずいて聞いてくれる人というイメージをもっていらっしゃるようですが、ちょっと違います。もちろん、きちんと聴くというのは基本で、カウンセラーは徹底的に訓練します。これは、ロジャーズが提唱した『来談者中心療法』です。人は、本質的に健康で建設的で向上意欲があるもの。何かに疎外されて、本来の自分が出なくなってしまったために病気になる。したがって、聴くことによって自ら「気づき」、本来の自分が出てくるという理論に基づいています。理論的には誰も反対しないのですが、実は「時間がかかる」「いくら聴いても気づかない人がいる」というのが現実です。様々な理論や技法が開発されていて、100とか200種類ぐらいあると言われています。資格取得のときは10種類ぐらいを学びます。つまり、カウンセラーは各々の得意の技法があり、全員がフンフン聴いてくれるわけではありません。特に企業人を対象にしている場合、短期間で回復させてほしい、長期間にわたる治療費は負担できないという要求があり、ロジャーズの方法は、あまり評判がよろしくないです。

私は、産業カウンセラーとしては、なりたてのホヤホヤで、まだまだ力不足です。しかし、脳力開発をやっている人間のひとりとして、多くの方に脳力開発を知っていただき、健康な心で活躍する人をつくっていく活動に貢献したいと思っています。

最後に<脳細胞回路の修正の仕方>を点検と確認させていただきました。
かけがえのない自分の人生、「嘆くが得か」「楽しむが得か」考えてみよう
1)まず「自分の状態がまずい」と、具体的
  に意識すること。意識なしには、何も始
  まらない。
2)「まずい状態を変えたい」と希望し、決
  心覚悟すること。
3)ねばり強く、強制的に実行し続けること。
  行動しなければ、脳細胞回路は変わらな
  い。

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