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平成24年11月例会報告

日時  : 11月14日 水曜日
      18;30 ~ 21;00
テーマ :「LCB式組織の健康診断R 」を活用した
     エラーの低減、撲滅活動、そのⅡ
~福島原発事故の減災の可能性はあった~

担当  : 中田 邦臣
     (LCB研究会 代表、NPOリスクセンス研究会 副理事長、NPO失敗学会 理事)

以下の詳細のついては、トップページの「じょうはん」会報平成25年1月号をご参照下さい。

1 はじめに
 筆者等は、組織に於ける事故・不祥事等を未然に防止、また起きた場合にはその被害を最小限に抑えることが重要と考え、組織内に顕在化した何か変だな?と感じた事象に早く気が付き、対処する手法として、簡便に自分の組織の状態をセルフチェックできる手法「LCB式組織の健康診断R 」を提案した。この手法はものつくり分野を中心に普及し始めており、サービス分野、特にオフィスでのミス、トラブル等の低減や医療分野への応用研究が始まっている。一方で、普及が始まったものつくり分野での有効性を検証するという研究、LCB式組織の健康診断R 」を提案した以降に起きた事故や不祥事について、この手法が提案するリスクセンス度を維持していれば、事故や不祥事は未然に防止できた、仮に発生した場合でも最小限の被害に食い止めることが出来た!という検証も行っている。
 今回は、昨年3月11日に起きた福島原発事故は、私達が提唱しているリスクへのセンスのレベルを東京電力の本店および福島第一原子力発電所のメンバーが組織体として更には個人として維持していれば、減災出来た可能性があることを検証したので報告する。
2.「LCB式組織の健康診断R 」とは
 本項については、過7月の例会で発表させて頂いているので、省略させて頂きます。
3.福島原発事故現場での初動に関する考察
 福島原発事故は、想定外の事故で炉心溶融、水素爆発
は不可避であった、との初期の論調から、国会事故調、政府事故調、当事者の東京電力および民間事故調の調査報告が出揃った7月以降では、「人災」という表現がみられるようになり、想定外の防ぐことが不可能であった事故ではないのでは?という論調になっている。政府事故調の委員の一人である柳田邦夫氏が、福島原発事故について文芸春秋に9月号から始めた連載の10月号では、「炉心溶融吉田所長の失敗」というタイトルも出始めている(注:柳田氏が使用している事故解析手法 M-SHEL(Management-Software,Hardware,Environment,Life )法は私達も使用している)。
筆者等は、過3月10日開催のLCB式組織の健康診断法の開発・応用研究(本研究は2008年度から科研費研究として研究しており、本年は第5年度に入っている。)に関するシンポジウムで政府事故調の中間報告書(2011年12月26日)をベースに、福島原発事故での現場での初動に問題があったのでは、と吉田所長および水素爆発を起こした福島第一原発第1号機、第3号機の運転員、水素爆発こそ起さなかったが重大は放射線汚染を起こした第2号機の運転員の事故時の初動が通常考えられているようにスムースに行われていれば、減災出来たと発表した。
福島第1原子力発電所災害対策本部の初動を、「LCB式組織の健康診断R 」の際の事故事例の解析手法として推奨しているVTA(Variation Tree Analysis)法とM-SHEL法を用いて1号機から3号機までの初動の拙いと感じる行動を顕在化させ、その原因を推察した。各図の縦軸は時間軸、横軸は初動に主に関係した部署、人を職位の高い順に左から書いています。その次に関係する装置、機器を記載しています。そして1号機の初動は以下のとおりです。
 1号機の初動は以下のとおり。(内容省略)
ICというのは地震等が起きた際に緊急停止した原子炉を速やかに冷却する非常用冷却装置で、1号機の場合は8時間しか稼働できない装置で毎時25t程度、淡水の補給が必要とされています。
吉田所長と当直の拙いと考えられる行動(着色した行動)についてそれぞれM-SHEL法で問題点を推察した。まず当直がどうしてそのような行動したかの考察結果を示します。(内容省略)
吉田所長の行動に関する考察は以下のとおり。(内容省略)
2号機の初動は以下のとおり。(内容省略)
2号機の非常用冷却装置は、RCICと呼び、20時間しか稼働できなく、毎時25t程度淡水が必要とされています。
  調査報告書では、当直長と当直のどちらが作業をしたか、不明なので同じポジションに記載しました。M-SHEL法の解析結果は同じなので省きます。
 3号機の初動は以下のとおり。(内容省略)
3号機の非常用冷却装置、HPCIも20時間しか稼働しなく、毎時25t程度淡水が必要とされています。当直に関するM-SHEL法の解析結果は同じなので省く。
 これらから、日頃から非常用冷却装置に関する訓練を受けていて、正しく冷却装置の操作が出来ていて、従って原子炉の緊急冷却が行われている間に結果的に遅くなっておこなったベントによる炉内圧力の解放と(淡水が80tしか在庫がなかったことから)早期に海水による原子炉の冷却を行っていればメルトダウンは防げたと推察しました。
4.東京電力及び福島第1原子力発電所の組織診断
吉田所長以下メンバーが、私達が提案している日頃から維持してほしいとしている組織風土、即ち「LCB式組織の健康診断R 」の11の診断項目の内、L1:リスク管理、L2:学習態度、L3:教育・研修、B1:トップの実践、B4:コミュニケーションがそれぞれ6段階評価の内の4以上のレベルを維持していれば減災出来た可能性があることを以下に示します。(内容省略)
5.今後の研究の予定
 現在国会事故調、政府事故調、東電および民間事故調を含む民間人が独自の立場で行った各種調査報告書(前述の民間事故調や大前研一氏のグループ他の調査報告書)を俯瞰した「福島原発事故から一般事業者が学ぶことは何か」の研究も行っており、来年3月9日(土)13:30から開催する私達の研究報告会(第10回組織行動と組織の健全性診断システムに関する研究成果報告会、場所は東工大大岡山キャンパス100年記念館会議室)で発表を予定しています。ご出席の上、アドバイスをお願いいたします。
<参考文献>
①大内「福島原発事故の減災の可能性はあったか」第9回組織行動と組織の健全性診断システムに関する成果報告会、2012年3月、東工大
②大内、中田、小山「福島原発事故の減災の可能性はあったか」2012年7月安全工学シンポジウム2012(日本学術会議講堂)
③個人と組織のリスクセンスを鍛える 編著NPOリスクセンス研究会 大空社(2011)
④福島原発事故政府事故調査委員会 中間報告書(2011年12月26日)
⑤柳田邦男「原発事故~私の緊急報告書」文芸春秋 2012年9月号から12月号

                  以上

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