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平成27年10月例会報告

日時  : 10月8日 木曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ :「悲劇の再発防止」とは。東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓から考える
場所  : 港区新商工会館
担当  :郷津 光

まず冒頭に、情勢判断学会をご紹介下さった古川元晴先生、今回の発表の機会を下さった古川彰久先生、例会参加者の皆様に深く感謝致します。

東日本大震災以前
 親戚が福島県浜通りに居る関係から、幼少期に福島県で多くの時間を過ごす。大学卒業後は東京電力の子会社に勤務。送電線による難視事業等に携わる。退職後法科大学院へ進学。在学中交 通事故に遭遇し受傷。その後遺症から大学院を休学。歩行のリハビリを進めている最中に東日本 大震災に遭遇した。
東日本大震災以降
 当初、福島県・東京都・埼玉県を中心に義務教育期間中における放射線教育に関する調査を、教育委員会への取材等を通じて行う。その後、国会事故調元調査員が立ち上げた「わかりやすいプ ロジェクト(国会事故調編)」へ参加。
 わかりやすいプロジェクトでは国会事故調報告書の内容検 討・論点抽出・資料作成・企画立案等を行う。また、より知見を広げる目的で2015年からは失敗学会例会にも一般参加。その中で古川  元晴先生とお会いする機会を得、今回の情勢判断学会例会での発表に繋がる。

発表内容

前提(事故原因について)
 津波よる直流含む全電源喪失および炉心冷却機能喪失を事故の直接的原因とする。その上で、 事故の根源的原因は、規制当局と事業者の逆転関係、すなわち「規制の虜」による「原子力安全に関する監視・監督機能の崩壊」(国会事故調報告書結論)であるとの立場に立つ。
現状の認識(困難とは)
 ① 議会
  国会事故調報告書「提言1」は、報告書の提出(2012年7月)から現在に至るまで実施されていな い。これは議会による行政の監視が十分に行われていない事を意味する。今後も行われる予定はない。原子力行政の透明性は他国と比較して制度的に大きく損なわれている。
 ② 司法
  検察審査会による二度の強制起訴の議決を受け、東電原発事故の内実および責任の所在について、司法の判断が及ぼうとしている。しかし、検察の極めて消極的な姿勢や具体的予見可能性説(通説)の強固な壁の存在等から、司法の動きは極めて鈍い状況にあると言える。
 ③ 行政
  政府は現政権となって主に経済的要因から既存原発の再稼働に邁進している。また政府の一員である原子力規制庁は、権限の少なさや資源の著しい不足に直面し、十分な規制・監督業務が出来ていないとの指摘がなされている。更に、規制当局の独立性を強調したあまり、日本国内での規制委員会の孤立化が進み、より事業者に取り込まれる危険が強まっていると言える。
 ④ 社会状況
  議会・司法・行政による事業者への十分な監視・監督が効きにくい状況下にあって本来ならば期待される国民による監視圧力も、対立の先鋭化等の影響を強く受け急激に衰えつつある。裁判の結果によっては「禊」感が形成され、「問題は決着した」との誤解が社会全体に広がる可能性も強い。
 ⑤ 結論
  上記と併せて、対立の激化・先鋭化による「原発問題には特殊な人間しか関与していない・関与出来ない」との認識の広がりと他人事意識の浸透、忘却、「少数の感情的で過激な反対派と、声を潜めやり過ごす推進派」という従来の構図の維持、原子力安全の専門家から漏れる「このままではまた大事故が起きる」という素朴な声等、これらの事情を総合的に勘案すれば、事故の教訓が十分に活かされているとは言えない。現状のままでは、仮に対処療法的に全原発を停止・廃炉したとしても、別の分野で同様の悲劇が再発する可能性が極めて強いと言える。
決意
 上記含む様々な困難に直面するも、古川元晴先生との邂逅やその後の対話の中で、自らが出来る事を自覚すると共に現状の打開を決意、検討を重ねた。
具体的方法の検討
?◆目的・戦略
   今回の事故の教訓を活かし、同様の構造を持つ悲劇の再発防止および社会全体の安全性・頑強性向上を目的とする。
?◆困難
   上記目的達成には、事故の性質から当然に下記の困難が生じる。
   『当事者性・対立性・複雑性』
?◆方向性・要件
   困難を乗り越えるためどの様な要件あるいは方向性が求められるのか検討、以下4点の要素 が必須であるとの結論に至った。
   ① 適切、② 安全、③ 容易、④ 自由
   対立を回避する為に中立公平、かつ悲劇の再発防止に有効な、適切な情報の提示が求められる。また対立の深刻化から安全性の確保も必要となる。それぞれの専門領域を抱えた経済活動・子育等に忙しい一般人向けを志向する以上当然に、極力事故の専門性を排し容易かつ短時間で把握可能な内容でなければならない。そして、それぞれが有する専門領域において教訓が有効に機能する為に、手段の自由が確保される必要があり、同時に主義・主張・政治目的からの自由も必須の要件となる。
?◆達成手段
   上記要件を踏まえ、下記2点の資料を開発した。
   (1). 「国会事故調結論解図」
   (2). 「事業者・規制当局の海外事故・自然災害対応年表」
   「国会事故調結論解図」について
   600ページ近くある国会事故調報告書(市販本)を一枚の紙に凝縮する事に成功した。事故前の組織的制度的問題こそが今回の事故の本質である点を容易に把握する事が可能。見た人それぞれがどの問題領域に関心があるのか直感的に把握する事を可能にした。隣接する問題領域についても同様に直感的に把握する事が出来る。
   「事業者・規制当局の海外事故・自然災害対応年表」について
   中立公平性の確保を目的として情報元を国会事故調報告書に限定。事実と国会事故調の評価も分離した。独自に国会事故調報告書から700以上ある論点を抽出した上で、更に事故の根源的原因を理解する上で必要かつ十分な事実を厳選した。主に事故の直接的原因を形成した 「津波対策・耐震対策・シビアアクシデント対策・複合災害対策」に対象を限定している。
資料に対する反響
 「特定の誰かを憎む必要がない事がわかった。」「どの様な点に自らが問題意識を持っていたのか、関心を持っていたのか明確になった。」「前向きな気持になれた。」「誰かに伝えたくなった」等  多くの肯定的な評価を獲得している。
情勢判断学会10月例会にて
 「国会事故調結論解図」ならびに「事業者・規制当局の海外事故・自然災害対応年表」の「津波対 策」について解説した。
 「津波対策」では大きく「貞観津波と津波堆積物調査」「地震調査研究推進本部(文科省)長期評価(2002)と想定津波高さ」「インド洋大津波(2004)と津波溢水影響」の3点に分類可能である事を解説。
【主な参考文献】
(1). 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(2012)『国会事故調報告書』徳間書店。
(2). 東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(2012)『政府事故調最終報告書』メディアランド。
(3). 古川元晴(2015)『福島原発、裁かれないでいいのか』朝日新聞出版。
(4). 松本三和夫(2015)「福島原発事故の背後にある“構造災”を考える─科学社会学の視点から─」『Isotope News』〔No.737〕2015年9月号 TRACER 公益社団法人日本アイソトープ協会。
(5). 早野龍五・糸井重里(2014)『知ろうとすること。』新潮文庫。
(6). 郷津光(2013)『国会事故調報告書論点・主張部分抽出』わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)。
(7). 郷津光(2014)『国会事故調結論解図』わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)。
(8). 郷津光(2015)『事業者・規制当局の海外事故・自然災害対応年表』わかりやすいプロジェクト(国会事故調編)。
(9). 政府閣議決定「平成24年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」、「平成25年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」、「平成26年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」内閣官房。
(10). 3年以内の見直し検討チーム(2015)『原子力利用の安全に係る行政組織の充実・強化について(最終取りまとめ)』内閣官房。
(11). 原子力問題調査特別委員会『会議録議事情報一覧』衆議院。
(12). 東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会『質疑項目』参議院。
(13). 産経新聞「原子力規制委に「監査室」設置へ 専門職員が内部チェック、発足から丸3年で組織見直し」『産経ニュース』2015.9.20 09:27 「規制委は同日、発足丸3年を迎えたが、自民党からは組織の見直しを求められている。規制委の田中俊一委員長は産経新聞の単独インタビューに応じ、「(監視機関を)国会につくるという案がなくなったので、中(規制委、規制庁)でやろうということになった」と述べた。」 「自民党の検討チームは昨年から会合を開き、国会に規制委の活動を評価する「監視機関」の創設も検討していたが、政治からの独立を確保するために断念した経緯がある。」

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