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平成28年12月例会報告

日時  : 12月8日 木曜日 18;30 ~ 20;30
テーマ :歓迎、トランプ大統領
場所  : 港区新商工会館
参加費 : 1000円
担当  :篠原 昌人

一、 ドナルド・トランプという人の特異性
トランプさんという新大統領がユニークな所以は、
反対者からの反発が強いことにあるでしょう。選挙が終わったあと、大統領とは認めないというデモが起こりました。ポールクルーグマンというノーベル経済学賞の学者はトランプの当選で、「世界は地獄に向かっている」と述べたそうですし、ニューヨークタイムズのコラムニストは、「自分の63年の人生で最も強い恐れを感じている」と筆にしました。安倍総理との会談に、自分の奥さんではなく自慢の娘を同席させるトランプさんですが、大事なことは明年の就任以降どんな対日政策を打ち出すかです。ここでは、いささか極端になりますが、どんなことを言って来るか考えてみることにします。

二、 ポストTPPの構築
まずはっきりしたのが、TPPには加わらないと宣言したことです。貿易促進のために12ヶ国(米国含み)で進められてきた経済協定から脱退するわけです。TPPの柱であるアメリカが加わらないわけですから当初の構想は有名無実化した、と言ってよいでしょう。かって国際連盟を提唱したアメリカは、連盟には入りませんでした。入りませんでしたが、常にそばにいて密接に関わっていました。今回の場合は全くサヨウナラというわけです。では我が国はどうするかです。
アメリカがいなくなれば次に控えるのは我国ですから、日本主導で残った国で発足する。スケールは小さくならざるを得ませんが、我が国主導というところに大きな意味があります。日本の景気上昇、圏内域国の経済成長が進めば、ある程度の貢献はできるかもしれない。同時に粘り強くアメリカの再考を求めるのです。色々言動の変わるトランプさんのことですから、就任後、脱退ではなく急きょ一転参加というハップニングもあり得るのです。
次は、アメリカに代わる大国を呼びいれることです。連れて来る役目はやはり日本が負わねばなりません。対象国は中国と韓国です。中国の場合はすでに別の経済圏を作っていますから、どのように調整するかという問題が立ちふさがります。最大の問題は、中国は自由貿易を採っているといっても、市場メカニズムではない要因で動くという側面があります。肝心な時に政府の意向、個人の介入で捻じ曲げられるのです。鉄鋼のダンピング輸出や為替の人的介入です。韓国が参加すればいいのですが、この国は政治が経済を圧迫する時があります。政府の要請で政治資金を求められる、政府の意向で財閥に圧力が加えられるなどです。こうしたことがTPPという国際協定に悪影響を及ぼす恐れがないとは言えません。インドは、どういうわけかTPPには挙がっていませんが、アプローチの可能性はないのでしょうか。大国ではなくとも、ミャンマー、ラオスといった有望国を募るのも一考だと思います。
TPP自体をなかったことにする、ご破算にするという手もあります。最大の貢献国が出て行ってしまったのですから。ですが、ヤーメタでみんな家に帰るというわけではありません。仕切り直しで、新たにアメリカとの間で特恵的な貿易協定を結ぶという方法があります。二国間協定というのは、特に日米の場合は貿易が不均衡の時に、日本の輸出超過の時に結ばされるというのが通例でした。繊維交渉がそうであり自動車問題もありました。貿易摩擦ですね。貿易摩擦に解決を与えたのが、1985年のプラザ合意でありました。今から30年前、円ドル相場をぐっと円高に設定したわけです。中曽根内閣で、大蔵大臣は確か竹下登さんでしたか。30年後の今は貿易促進のためなのですが、日米だけで特別な協定を作るのは困難でしょう。試みに日米シェールオイル協定というのを想像してみましょうか。アメリカは今や最大の石油輸出国なのです。各国が垂涎の的としている魔法の油を日本だけが有利な条件で輸入できるとなれば、WTO違反と提訴されかねません。自由貿易原則違反だと。ですから極端に有利なものは結べないとしても、各国それぞれの利益が一致すれば複数国で貿易協定を結ぶということが考えられます。

三、 孤立主義対策
新大統領は、アメリカ第一と訴えてきました。自国優先という意味と、世界一のアメリカを表明したものでしょう。この自国優先から、アメリカは孤立主義に向かうのではないか、という心配が生まれます。反グローバリズムとも言えるでしょう。
現代社会には二つの大きな流れがあります。一つは、情報というものをできるだけ自由に、できるだけ公開していこうというものです。IT技術そのものがこの流れを促進させています。それに、制度面からは情報公開法があり、誰だって請求によって完全ではありませんが情報・資料を目にすることができます。もう一つは逆です。情報を極力隠そうという流れです。個人情報保護法がそれです。まあ公のものは公開しろ、プライバシーは隠せ、ということになりましょうが、この境界は曖昧な点があります。
トランプさんは、メキシコ国境に壁を作って移民を阻止すべきだと言いました。ひょっとするとトランプ政権は、人の流れに制限をかけるのかもしれません。個人情報保護が発達して、アメリカ人保護法とでも言うべきものが出てくるかもしれません。名目はテロ対策です。怪しい人間は入れるな、というわけです。反グローバリズムです。しかしあまりに一方的になるわけにもいかず、たとえば世界難民会議、仮称ですが、提案してくるかもしれません。各国が分担して難民を受け入れようというわけです。日本もシリア難民を受け入れざるを得なくなる可能性が出てきます。実際トランプさんが就任後、この点で何を言ってくるのか今のところわかりません。孤立主義、反グローバリズムの余波がやってくることを予想して置くべきでしょう。

四、 ポスト日米安保の構築
そして、まさに衝撃的な、ショックとも言うべきものが日米安保破棄、解消でしょう。正式な外交用語で言えば安保自動延長はなし、とアメリカからアメリカからというのが大事ですが、通告されるわけです。これは日本の自立、本当の自立を考えるスターティングポイントになります。安保がなくなっても日米が断絶するわけではありません。力の空白が生じるわけです。いや日中平和友好条約があるではないか、との声があるでしょう。日中条約は同盟条約ではありません。同盟は不要という考えもあるでしょうが、対処法には三つあります。
―日本核武装―
これまでは核の傘をアメリカがさしてくれていました。安保がなくなれば周辺国の核兵器に対し日本は無力となります。じゃあ自分でも持とうというわけです。核の均衡論からすれば正当な選択で、相手がもてばこちらも持つ、これによってバランスが保たれるという単純明快な考えです。伝統的な、古典的とも言ってよい核戦略論です。トランプさんは、日本の核武装をOKすると発言したそうですから現実味を帯びてきます。
ですが全く同じ現実味で世界を見渡し振り返ると、広島、長崎以後、核兵器は一度も使われていません。危機はありましたが回避できました。やはり核保有国の叡智が優った結果でしょう。将来は無論わかりません。ですがこの70年間、結局使わなかった、否使えなかったという現実は重いと思います。つまり核兵器は使えないものとなっていること、政治的兵器になっているということです。そんなものを持つ必要があるのかという考えは出てくるわけで、次の手段を模索することになります。
―第二の同盟国―
アメリカに代わり新たなパートナーを見つけるものです。誰しも思いつく国は中国でしょう。中国は核保有国ですし、日本の最大の貿易相手国ですから。こうした一国をパートナーに選んだ場合は、対等な両国関係を求められるでしょう。日本は今や集団的自衛権を行使する国になりました。具体的な内容は様々でしょうが、日米安保のような片務的なものは認められなくなります。
一国に全面的に頼るのではなく、集団安保を作るという手もあります。複数国が加盟して安全を互いに保障しあうやり方です。加盟国のどこかが侵略を受ければ共通して対処する。加盟国同士で紛争が起これば他の加盟国が調停に乗りだす。こういう方法で集団安全保障条約を結びます。アジア版NATOです。かってソ連のブレジネフ書記長がアジア集団安保を提唱したことがありました。日本にもお声がかかりました。ブレジネフの目論見は、ソ連、インド、日本の加盟で中国を包囲しようというのでした。アジアには中露という二大国があり、この二国の利害を一致させることが集団安保のポイントとなります。アジアには従来から日米安保、米韓安保、南北朝鮮、米比安保、中露関係、中越関係といった複雑な要因があり、アジア版NATOの実現を阻んできました。この中の日米安保という大きな要因がなくなれば、何らかの形が生まれるかもしれません。
―無視策―
無視というと誤解がありますがこういうことです。じたばたしない、あわてない、正確にはああそうですか、という無視する態度をとる。そのうえで、日本を守ってくれていたアメリカがいなくなるのですから、日本自体で考えねばなりません。たとえば核武装はしない、同盟関係も作らない、自国の国防政策を考える、一種の自主防衛です。
自主防衛というと即軍備増強ととらえがちですが、必ずしもそうではありません。何よりも国民の意識改革が大事です。自主防衛はそのきっかけとなるでしょう。これまでは、アメリカが守ってくれると思われていました。そうではないのです。アメリカは応援に来てくれるのです。侵略を受けた時は、何よりも日本が主体とならなければなりません。これまででもそうあるべきだったんです。例を挙げますと、朝鮮戦争の時、崩れゆく韓国をマッカーサーが視察しました。ハンガン(漢江)の岸辺に立って一人の住民に尋ねました。「おたくの国はもうダメかい」と。相手は「そんなことはない、押し返せばいいんだ」との答え。これでマッカーサーは韓国支援を本気で決意しました。要は国民の気ですね。自主国防であれば、日本国民の堅固な国防意識が大事になります。国家の体制としてはこれまで通り防勢を執るということになりましょう。しかし武力は、必要最大限でなければなりません。相手によって様々ですが、必要最大限の武力を用い早期に終わらせるのです。単に最大限ではありません。必要な範囲での最大限です。日米安保解消によって、アメリカだって日本の仮想敵国になります。そういう意識を持つことが、自主国防の基礎といえましょう。
                   了。

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