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平成30年10月例会報告

日時  : 10月11日 木曜日 18;30 ~ 21;00
テーマ :城野先生の主冊子「なぜ脳力開発なのか」の再考察 第10回~第12回(最終回) ー脳力開発と脳科学との関係ー

場所  : 港区商工会館
参加費 : 1000円
担当  : 古川 元晴

第1 例会での議論の概要
(1)10月例会では、「脳力開発と脳科学との関係」という観点から、城野先生の冊子「なぜ脳力開発なのか」の第10回~第12回(最終回)と脳科学者池谷裕二著『脳には妙なクセがある』(池谷著書)について、「10月例会ご案内」記載の要点整理に基づいて議論し、加えて、城野先生の冊子「脳力開発のすすめ-誰でもすばらしい頭になれる-」に基づいて、城野先生の提唱する「脳力開発」と脳科学との関係についての理解を深め合いました。
(2)そこで、上記文献等を基に、「脳力開発と脳科学との関係」についての議論の概要を整理すると、以下のとおりです。

第2 「脳力開発と脳科学との関係」について
1 「脳力開発」の目的と「脳科学」の目的
(1)城野先生・・脳力開発の推進とはこの世の中をもっと素晴らしく、おれも十分に生きてきたぞという実感をすべての人たちにもってもらいたいという活動なのである。
(2)池谷氏・・ 脳科学の視点から、「よりよく生きるとは何か」を考えること。楽しくごきげんに生きるーこの目標を達成するために脳科学の成果を活かしたい。
(3)評価・・両者は、対象分野は異なっていても、目指す方向(戦略)は基本的に同じであると理解できます。

2 「脳の構造」についての理解
(1)城野先生
  ①140億の脳細胞から成り立ち、一つの細胞から50本くらいの脳神経が出ている。脳神経の末端が、一つの行動ごとに他の脳神経の末端と結合し、シナプスを形成する。
②こうしたつながりができてゆくと、一つの脳神経に伝わった刺激が、他の脳神経にも伝達され、それぞれの脳細胞に応じた反応がとられ、総合的な行動指令となり、身体各部を動かして、人間の活動が生まれる。
  ③脳細胞と神経の数、それに神経の伝達速度は、人間であれば同じであり、大差はない。だから人間としては、元来、秀才、鈍才の区別はない。
(2)池谷氏・・脳は、身体運動の制御装置
①動物は、身体運動を制御するための装置として、進化の途中で、筋肉と神経系を発明した。高速の電気信号を用いて、すばやく運動を行おうというわけ。
③この神経系をさらに効率的に発達させた集積回路が、いわゆる「脳」。脳は、外部の情報を処理して、適切な運動を起こす「入出力変換装置」。餌ならば近寄る、敵や毒なら避けるといった、単純だが生命にとって大切な反射行動を生み出す装置。
(3)評価・・城野先生の考え方が、池谷氏の説く脳科学の観点からも十分に裏付けられていることが、よく理解できます。

3 頭はよくなるのか
(1)城野先生
①食って寝てという人間生存の基本的活動に対応するシナプス形成は、生後4年までで約80%を完了してしまう。
②この後は、社会生活における複雑な事象への反応組織を、一つ一つ積み上げてゆくことになる。成人になってからも頭がよいといわれ、仕事がよくできるといわれる人は、この後の電線の結合作用を沢山つみ重ねてきたからである。
③普通、脳細胞の2%くらいしか使わにずに暮らしているのに、しばらく訓練すれば少なくとも30%くらいは使って暮らすようになる。
  ④これが頭をよくするということで、成人になっても、年をとっても、その気になればできることなのである。
(2)池谷氏
①脳は、周囲の環境や刺激にどう反射行動を起こすかの自動判定装置。
②「頭がよい」の定義を一概に論じるのは難しいが、私は「反射が的確であること(その場その場に応じて適切な行動できること)」と解釈している。
  ③この自動判定装置が正しい反射をしてくれるか否かは、本人が過去にどれほどよい経験をしてきているかに依存。私たちの行動は、80%以上はおきまりの習慣に従っている。「よく生きる」ことは「よい経験をする」ことだと考えている。
(3)評価
  ①城野先生が、未来志向的に頭をよくする方法を説くのに対し、池谷氏は、過去から現在までにおける経験の蓄積としての「生活習慣」がよいか否かによって、頭のよさに差が生じると説いていますが、その根底にある「頭をよくする方法」は、基本的に同じであるように理解できます。
②もっとも、城野先生が人間の「決心、覚悟」等の精神的姿勢を重視しているのに対し、池谷氏は、ヒトの「意志、心」は脳にではなく身体や環境に散在しているという注目すべき説を提起しています。この説の要点は既に「10月例会ご案内」の第2、4で簡単に記していますが、重要な点ですので、次により具体的に見ておくこととします。

第3 脳科学から見たヒトの「意志、心」
1 ヒトの「意志、心」誕生の経緯
①脳の構造は階層的で、「脳幹」「小脳」「基底核」といった旧脳部分は、進化的に古く、いずれも身体と深い関係をもっている。
 ②これに対し「大脳新皮質」は、旧脳のうえに存在しているが、身体性が希薄で、解剖学的にみても、身体と直接的な連結をほとんどもっていない。
③進化的に後から生まれた「大脳新皮質」は、初期の段階では旧脳をさらに円滑に動かすための「予備回路」として参入したが、進化とともに脳が大きくなって、特にヒトでは大脳新皮質の拡大が顕著。その結果、旧脳より大脳新皮質が優位となり、身体性を省略したがる癖が生じた。
④その結果生まれたのが、計算力、同情心、モラルなどの機能。こうした高度な脳力は、もともと身体性から発生したものだが、物体としての身体から解放されることによって獲得された脳力。

2 脳科学が、「意志、心」の所在場所を身体や環境であるとする根拠
(1)経験によって反射の仕方が変化する
  ①自由意思とは本人の錯覚にすぎず、実際の行動の大部分は環境や刺激によって、あるいは普段の習慣によって決まっている。「思考癖」や「環境因子」が決めている。
  ②無意識の自分こそが真の姿である。意識と無意識はしばしば乖離する
③悪い反射癖が身についてしまうとなかなか戻すことが難しい。
(2)意識に現れる「自由な心」はよくできた幻想
ア 脳の「補足運動野」
   ①真っ先に準備を始める脳部位。その部位での準備後に「・・したい」という感情が"後付け"で始まる。
  ②「意志」はあくまでも脳の活動の結果であって、原因ではない。
  イ 実験によって得られた脳地図・・どの脳部位が何を担当しているかを示す脳地図
  ウ 「自己認識された自分」と「他者から見た自分」の乖離
①前頭葉にある「前運動野」・・個々を刺激すると身体運動が起こるが、本人には「動いた」という自覚がない。
  ②頭頂葉にある「補足運動野」・・個々を刺激すると、実際には動いていないのに「動いた」ように感じる。
   ③結論・・ヒトという生き物は自分のことを自分では決して知り得ない作りになっている。

3 脳科学から見たヒトの「意志、心」の活用方法
(1)よい経験を積んでよい「反射」をすることに専念する生き方の提案
①脳は、元来は身体とともに機能するように生まれた。手で書く、声に出して読む、オモチャで遊ぶなど、活き活きとした実体験が、その後の脳活動に強い影響を与えるだろうことを、私は日々の脳研究を通じて直感。
②勉強部屋や教室をメインに成長した人と、野山や河原を駆け回って成長した人では、身体性の豊かさは明白
③テレビゲームの悪しき面は、身体性の欠如。視、聴、味、臭、皮膚の五感のうち、少なくとも味、臭が欠如。
(2)脳には入力と出力があるが、出力の方が重要
ア 私たちの脳が「出力を重要視する」ように設計されている以上、出力を心がけた生き方を大切にしたい。
  イ 行動するとその行動結果に見合った心理状態を脳が生み出す。たとえば次の例。
①笑顔・・笑顔に似た表情を作るだけで愉快な気分になるという実験データ
②就寝・・寝ようとして睡魔を呼び込むために、就寝の姿勢(出力=行動:寝室に入って電気を消す等)を作ることで、それに見合った内面(感情や感覚)が形成される。
③やる気・・やる気が出たからやるというより、やり始めるとやる気が出るといケースが多くある。
   ④ニューロン・・身体運動を伴うとニューロンが10倍ほど強く活動する実験データ。

第4 結語
 城野先生の「脳力開発」は、脳科学の発展によって、私たちの日常生活に深くかつ広範囲に根ざしたものとして普及させていく展望が、一層開けてきているのではないでしょうか。脳科学の現時点での到達点及び今後の更なる進展を注視し、今後の「脳力開発」の実践活動及び普及活動に極力活かしたいと思います。

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