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令和3年5月例会報告

令和3年5月例会ご案内

日時  : 5月13日 木曜日 18;00 ~ 20;00

テーマ :城野先生の「情況判断の行動学」 の第三章(4)原因の探求より


場所  : 港区立商工会館

参加費 : 1000円

演者  : 古川 元晴

 5月例会では、第三章の脳の使い方のプロセスの(1)戦略決定、(2)情報収集、(3)立場の検査、を踏まえた「(4)原因の探求」について、城野先生の記述の意味を吟味しながら、そこから何を学ぶのかについて議論しましたので、その概要を報告します。

第1 「原因と条件の混同」について
 1 城野先生の記述 
(1)「原因」という用語は、「結果」と対置して、結果発生の原因という意味で用いることが通常ですが、城野先生は、この「原因」をさらに「条件」と対置して、原因と条件の違いについて、次のように記述しています。
・原因・・当人の脳の作用(興奮と抑止の2つの結合された作用)
・条件・・当人に対する外的な作用
(2)その上で、当人の判断が問題の原因だから、問題は当人で解決できる、相手の対応は条件であるのにこれを原因と混同すると、解決策は永遠にとれない、としています。
 2 上記についての感想
(1)私たちは、「原因」という用語を普段多用していますが、上記のように「条件」と対置して理解するというのは、城野先生の、脳科学に基づいた独創的な意味付けによるものではないかと思われます。「原因は自分にある」と思うだけで、問題への対象方針が明確になることは事実です。
(2)大企業が不祥事を起こした場合には、その原因を解明するとうことで、「調査委員会」が弁護士等を委員長として設置され、報告書が公表されることがありますが、この報告書の評価も、城野先生の意味する「原因」をどこまで解明できたかによって判断するとよいのではないでしょうか。不祥事が経営陣よる場合には、経営陣は、責任逃れのために、責任の「原因」を外的な「条件」に転嫁し、委員会も、当該企業の費用負担で設置されているので、これを追認したような報告をまとめることがあります。しかし、それでは真の原因は放置され、企業再建は危うくなるでしょう。

第2 「自由自在の対応」について
 1 城野先生の記述
(1)上記のように「原因」と「条件」を理解できれば「精神の自由」が獲得できるとして、次のように記述しています。
・原因が自己の判断だとわかれば、興奮と抑止という2つの脳の作用のうち、どちらを優勢にするかという自己努力によって、問題を解決できる。精神の自由はこうして獲得される。
  ・人間はこの原理を会得して事に対すれば、すべて自在に解決できるようになる。
(2)そして、「精神の自由を失い、自由自在な対応力を失った事例が沢山ある」として、次のように記述しています。
・自分の希望どおりにならぬことがあると、酒を飲んで愚痴る。このプロセスでは、失敗の原因をつかむなど問題になっていない。相手が自分の思うようにならないといって恨んでいるだけである。
2 上記についての感想
(1)「精神の自由」などと言うと、哲学的で難しいように思いますが、上記のように「脳の作用」として理解すると、日常的な自分の行動そのものであることがよく分かり、「そのとおり」と納得できるのではないでしようか。
(2)前記の「第三者委員会」による企業不祥事の真の「原因」解明は、当該企業が再建に向けて「精神の自由」を取り戻すための方法と理解すれば、この「第三者委員会」の役割も明確になるはずです。

第3 「拒絶理由―承諾へのヒント」について
1 城野先生の記述
 「拒絶理由」は「承諾へのヒント」であるとして、次のとおり記述しています。
・立場が敵対的なら、いくら献策の方法を変えても通らない。先方の目的は、こちらのすべてを否定することにあるからである。
  ・敵対的でなければ、相手に受け入れられると受け入れられないとは、一つの物事の両側面をなしているから、拒絶理由をきけば、承諾の理由がわかる。
  ・承諾の条件を作れば、相手の脳は、承諾するという選択指令を出す。これは脳作用の必然である。
2 上記についての感想
(1)「物事の両面」を見るということで、「拒絶理由をきけば、承諾の理由がわかる」としています。誠にもっともな記述ですが、自分の日常の行動がそのように習慣づけられているかといえば、「拒絶された」という一面だけ見て思考停止していることが多いように思われ、反省せざるを得ません。
(2)また、「承諾の条件を作れば、相手の脳は、承諾するという選択指令を出す。これは脳作用の必然である」として、脳科学に基づいた記述をしています。「思考停止」から「思考全開」に転じる方法は、「相手が承諾する条件を出す」という方向に自分の脳を働かせるということで、これも日常行動において習慣化させたいものです。

第4 「新しい条件を出せ」について
 1 城野先生の記述
不愉快な人生を愉快な人生に転換させるためには、新しい条件を出すようにすればよいとして、次のとおり記述しています。
  ・原因と条件を取り違えると、自分で新しい条件をつくっていこうとしないから、いつまでたっても解決しない。だから、いつまでも、だめだだめだと悲観してすごさねばならない。悲観して恨みに明けくれるような人生は、みじめで、不愉快な人生である。
  ・人間は、各々独立した人格であり、それぞれの戦略を持ち、それぞれの戦術や好みを持っている。だから、他人を自分の思う通りにしょうとしても、不可能である。
  ・脳力開発の目的は、恨みつらみの人生ではなく、愉快で健康な、素晴らしい人生がおくれるようにすることである。
2 上記についての感想
(1)人間の日常の行動は、対人関係によって良くも悪くもなるものですが、上記は、相手の言動に流されてみじめになるのではなく、自分の主体性を確立して、愉快な人生をおくれるようにする道筋を示してくれています。また、それが脳力開発の目的である、としています。
(2)上記は、組織における個人の主体性の確立ということでもありますが、実際にも、「会社を辞めたい」といっていた人が、上記のような話をしたら、これを撤回し元気になったという事例があるということでした。

第5 「欠点と優点の発見」について
 1 城野先生の記述
ある青年の実例として、次のように記述しています。
  ・孤独で暗い顔をしていたが、脳力開発学を勉強して、表があれば裏があり、上があれば下があり、欠点があれば優点があるということで、他人の欠点を見たら優点も見るようにしたら、気分は明るくなり、孤独感などふっとんでしまった。
2 上記についての感想
(1)上記は、個人の実例ですが、これを組織におけるリーダーの役割という観点から見ると、優秀なリーダーは、基本的に、「個々のメンバーの優点を見出し、育てる」という観点を持っているようです。
(2)ただ、何がその人の優点・欠点かは、個々のリーダーの主観的な判断では恣意的になります。野球の野村監督のデータに基づく指導と解説は、その観点から評価できるという意見もありました。

第6 「両面から見る」について
 1 城野先生の記述
前記の青年の事例について、「両面から見る」という観点から、次のように記述しています。
  ・この人は、孤独でいたのを、多くの人の助けがあるように条件を変えてしまったのである。孤独でいたのは自分自身の認識の間違いに原因があったわけである。
  ・この人の脳反応は、いつも一面だけをとりあげるように習慣づけられていた。いつも両面を見なければ、物事の全貌はわからない。
 2 上記についての感想
(1)「両面を見る」というのは、「全体を見る」ということでもありますが、その反対に「木を見て森を見ず」とか「部分最適、全体不適」ということが、よく言われます。自分では全体を見ているつもりでも、実際には視野狭窄に陥っている場合が少なくありません。脳反応の習慣ということですので、日々の行動の中で、意識的に改善していく必要があります。
(2)日本社会の特徴として、陰湿な「いじめ」、「過度な平等主義」、「出る杭は打たれる」などというようなことが言われますが、これも「習慣性の脳反応」の現れということで、改善できないことはないはずです。

第7 補足
情勢判断学会での議論は、脳力開発を目的としたものですが、城野先生の記述は、個人や組織の行動原理を、脳反応という人間だれもが日常の行動の中で理解できる科学的観点から分かり易く記述したもので、今回の例会でも、その点を実感できたように思います。
日本の経済の長期低迷とか、新型コロナ禍への後手後手の対応とか、オリンピック開催の理念の喪失とか、真のリーダーの不在とか、種々難しい議論が展開されていますが、結局は、日本の人々の日常的な行動の中で習慣となった脳反応の積み重ねの結果ということですので、改善できないわけはないということになります。そこで、まずは自分自身の脳反応の習慣を改善することから始める必要があるようです。

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